2-12
学校前の校庭で、私とゆんゆんは未だに言い合っていた。
「……まったく。この子はどうしてこんなに冗談が通じないんでしょうか」
「何が冗談よ! 絶対に許さない! 絶対に!」
本気で泣いて突っかかってきたゆんゆんのおかげで、前の授業は二人仲良く廊下に立たされた。そして今は、戦闘訓練という名目の体育の授業中だ。
「ほらそこ! うるさいぞ、この授業でも立たされたいのか。幾ら詠唱を暗記しているからといって、授業の妨害だけはするな。二人とも減点二十だ! ……よし。では、この時間は戦闘訓練だ。だが、今日の訓練は一味違うぞ。……先ほどから睨み合っているそこの二人! お前達に質問だ。戦闘で生き残るために最も必要なものとは何か?」
担任の質問に、ゆんゆんが前に出た。
その雰囲気から、あきらかにこちらを意識しているのが分かる。
「仲間です! 仲間がいれば、生存率は飛躍的に上昇します! もっとも、たとえ冗談でもやっちゃいけない事があるというのを理解しない、頭に大きな欠陥がある仲間は論外ですが!」
……お、おのれ……!
「ふむ。……では、次! めぐみん! 戦闘で生き残るために必要なものとはなにか?」
「火力です! 仲間だなんだと綺麗事をゴネゴネ言う寂しがり屋も、一緒に吹っ飛ばすような超火力! 力! 圧倒的な力! 友達欲しい、仲間が欲しいとモジモジするぐらいなら、私は孤高の魔法使いを目指します!」
「ぐぐぐぐ……!」
ゆんゆんが、未だに涙目のままで私を睨みつけてくる。
担任は私達の答えを聞いて、腕を組みながらうんうんと頷いた。
「「先生、何点ですか!?」」
「共に三点。ガッカリだ! お前達にはガッカリだよ! お前達二人は、そこで正座でもして話を聞いてろ! ……ペッ!」
この教師、とうとうツバを吐いた!
ゆんゆん以上に、この教師にこそ腹が立つ!
悔しさでプルプル震えながらも大人しく校庭で正座する私達を尻目に、担任が大声を張り上げた。
「あるえー! お前なら分かるだろう! そこの、成績のみ優秀な“なんちゃって紅魔族”とは違うお前なら!」
なんちゃって紅魔族!
ゆんゆんと二人で正座しながら、私達はギリギリと歯を食い縛る。
やがて、担任から指名を受けたあるえが前に出た。
片目を隠している眼帯を、くいっと上げて――
「戦闘前のセリフです。これさえ間違わなければ、たとえ武器が大根一本だろうが、一人で百万の軍勢に立ち向かおうが死ぬ事はありません。逆に、どんなに強力な力を持つ魔王でも、『冥土の土産に教えてやろう!』や、『お前達が私に勝つ確率は0・1%だ』などとのたまうと、高い確率で死にます」
「百点! 後でスキルアップポーションをやろう! 紅魔族に伝わる『死なないためのセリフ名鑑』は全員暗記しているな? では、各自ペアを作り戦闘前のセリフを練習せよ!」
担任の言葉にクラスメイト達が思い思いにペアを作った。
とはいえ、このクラスの人数は十一人。
普段は私が体育をサボっているので数が合うが、今日のところはサボる気はない。
私は正座を解いて立ち上がり、同じく隣で正座していたゆんゆんに。
「……ゆんゆん、ペアを組みますよ。ふにふらとどどんこは、恐らく二人で組むでしょう。なら、あなたは余りますよね?」
「……いいわよめぐみん、組もうじゃない。セリフの練習なんかで終わらせないから!」
どうやらお互い、考えている事は同じのようだ。
「先生、余りそうなので私と組んでもらっていいですか?」
「おう、構わんぞあるえ。……では、各自始めー!」
――クラスメイト達が和気あいあいと名乗りを上げる中、私とゆんゆんだけは真剣な表情で対峙していた。
「いよいよ決着をつける時がきたようですね。コツコツと積み重ねてきた者が、最後には必ず勝つのです。私は、そう信じています。貧しい家庭の生まれながらも、一歩一歩歩んできた私ですが……。族長の娘として、生まれながらのエリートとして育ったあなたには負けられません! 生まれや才能なんかではなく、努力した者が勝つって事を私が証明してみせます!」
「私は今まで、ただの一度もあなたに勝った事はなかった……。でも、たとえ勝てる可能性がほんの僅かだとしても……。それがゼロじゃないのなら、私は絶対に諦めないっ!」
お互いが決意を秘めた言葉を紡ぎ……、
「「…………」」
そして、対峙したまましばらく黙り込んだ。
「……なんですか! ずるいですよ、そんな主役みたいなセリフ吐いて! 私が負けそうな気がしてきたじゃないですか! さっきは仲間がどうとか言っていたのですから、それらしいセリフを吐くべきです!」
「めぐみんだって、火力がどうとか言ってたんだから、もっと悪役っぽいセリフ言いなさいよ! 大体、なにがコツコツと積み重ねてきた者よ、めぐみんは天才肌じゃない! それに、私の家の事を持ち出すのはズルいわよ!」
戦闘前のセリフにより、勝利の確率を上昇させる。
紅魔族に伝わるこの秘技は、相手が紅魔族では意味をなさない……!
「もう面倒です! 戦闘訓練の授業なのですから、実際に拳でケリをつけましょう! お互いそれで言いっこなしです!」
「私なら別に構わないわよ! でも、体格で下回るめぐみんが私に勝てるの? 今日は、いつもみたいな小細工は通用しないわ!」
ゆんゆんが、そんな事を叫びながら先手を打って攻撃してきた!
牽制する様に前に出たゆんゆんが、私の腹の辺りを軽く蹴る。
それで私との距離を測ったのか、腰を落として地面を踏みしめ……!
「みゃー」
私のお腹の部分から聞こえた声に、ゆんゆんが動きを止めた。
正確には、お腹というか服というか。
懐に潜っていたクロが、ゆんゆんに軽く蹴られた事で鳴いたらしい。
「あ……ああ……」
ゆんゆんが状況に気づき、途端にオロオロしだした。
「どうしたのですか? ワタワタしだして。それ以上こないというのなら、今度はこちらから行きますよ?」
「待って待って! ねえ待って! お腹にクロちゃん入れるのやめてよね! それじゃ攻撃できないじゃない!」
にじり寄る私に対し、不安気な表情で後ずさるゆんゆん。
「先ほど仲間がどうとか言っていたゆんゆんなら、こんな時はどうするのですか? ほらほら、仲間というのは一方的に助けてくれるものじゃなく、時にはこうして、人質に取られたり足を引っ張ったりもするのですよ! 私なら、仲間もろとも超火力でぶっ飛ばしてやりますが! ほらほら、攻撃できるものならしてみなさい! あなたが名づけたこの猫を、蹴れるものなら蹴るがいいです!」
「卑怯者ーっ!」
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