2-13


 ゆんゆんとの対決に勝利し、その帰り道。


「めぐみんって、私との勝負でまともに戦った事ってないよね!」


「勝負の後は言いっこなしだと言ったのに、ゆんゆんって根に持つタイプですね!」


 一人で帰ろうとする私の後を、邪神の墓に再封印がなされるまで一人で帰るのは危ないからと、律儀についてくるゆんゆんと未だ言い争っていた。


「大体、ゆんゆんがあの二人と何があったのかを教えてくれないから、変に気になってこんなにこじれたのではないですか。そんなに恥ずかしい事なのですか? ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃないですか」


「は、恥ずかしい事じゃないから! ていうかダメよ、絶対に他の人には内緒だからって口止めされてるんだもの! だって、友達の秘密は守るものでしょ?」


 本当に、この娘はなんてチョロい。

 断言できる、ゆんゆんは将来、絶対にダメな男に引っ掛かる。

 私は絶対にこうはならない様にしよう。


「……まあいいです。でもゆんゆん、あなたの友人の悪口を言うつもりはないですが、あの二人についてはあまりいい噂は聞かないですよ? 何があったかは知りませんが、少しは疑ったりした方がいいですよ」


「めぐみんが疑り深過ぎるのよ。一体どう育ったらそんな風に人を疑えるの?」


「我が家の家庭事情では、まずは疑って掛からないと。ただでさえ生活がギリギリなのに、おかしな詐欺にでも引っ掛かったら皆路頭に迷います。ウチの妹の話ですが、先日も、我が父の作る欠陥ばかりの魔道具が素晴らしいと、えらく褒めちぎってきた店主がいたそうですよ?」


「そ、それは……。まあ、そこまでいくと私も詐欺だとは思うけど……」


 暗に、ゆんゆんも父の作品を欠陥商品だと認めているのだが、これはもう仕方がない。

 たとえば、暗い所で読みあげると周囲を照らす事ができる魔法の巻物(ルビ:スクロール)。


 それだけ聞くと便利なアイテムの様に聞こえるが、暗い所ではそもそも巻物が読めず、僅かな灯りでもあると巻物の効果が無いという、訳が分からない代物だ。

 他にも、開けると爆発するポーション、衝撃を与えると爆発するポーションなど、一体何に使うのかも分からない物ばかり作っている。

 趣味に生きるのもいいが、最低限のお金は確保して欲しいものだ。


 ……まあ、ネタ魔法と呼ばれる爆裂魔法を覚えようとしている私が言える事でもないのだけど。

 やがて我が家が見えてくると――


「……まあそんなに、友達がいない友達がいないと、あまり気に病む事はないと思いますよ? 案外、ゆんゆんの事をちゃんと理解している人もいるかもしれませんしね」


 キョトンとしているゆんゆんに、私はそれだけ告げると家に帰ろうと……。

 して、不審な男が家の前をウロウロしているのに気がついた。


「ね、ねえめぐみん、誰かいるよ!?」


「窓から中の様子を窺ってますね。一体どこのストーカーでしょう……、おや?」


 窓から家の中を覗いている男。

 それは、暇を持て余しているご近所さん、靴屋の倅のぶっころりーだった。

 私に用があるなら堂々と訪ねてくればいいものを。


「そこで何をやっているんですか?」


「うおっ!? あ、ああ、めぐみんか……。よかった、待ってたんだよ。というか実は、相談したい事があってね。といっても、今日はもう遅いから……。明日は祝日だし、学校も休みだろ? 明日の朝……。できれば、そっちのゆんゆんにも相談に乗って欲しいんだ。若い女の子にしかできない相談でさ」


 私達は、そう言って頭を?くぶっころりーを前に、顔を見合わせた――


「――帰りましたよー」


「姉ちゃん、お帰り!」


 ドタドタと駆けて来るこめっこに。


「お腹空きましたか? 今、何か作りますからね」


 そう言って笑い掛けると、こめっこはふるふると首を振った。


「空いてない。たくさん食べたよ」


 ……たくさん食べた?

 家にそんな余分な食べ物は無かったはずだが。

 これでクロを家に置いていたとしたら怖いセリフだけど、ちゃんと私の肩にしがみついているのでそれもない。

 不思議に思い、台所へ向かうと……。

 そこに大量の食べ物が置かれているのを見て絶句した。

 野菜に果物、お菓子まで。

 というか、ちょこちょこオモチャまで混じっているのだが……。


「これはどこで手に入れたのですか?」


 私の問いに、こめっこは真剣な顔で。


「我が名はこめっこ! 家の留守を預かる者にして紅魔族随一の魔性の妹!」


 そう言って、ポーズを決めた。


 ――この子は将来、絶対大物になる。


【次回更新:5月30日(月) 第三章「紅魔の里を守る者」】

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