2-11
――翌日。
猫のクセにやたらと肩に引っついてくる人懐っこいクロを連れ、教室に入ったのだが。
「あ、めぐみんおはよう。……クロちゃんもおはよう」
いつもは私の姿を見つけると、嬉々として勝負を挑んでくるゆんゆんが、なぜか普通に挨拶してきた。
「おはようございます。……どうしたんですか? いつもは私の顔を見ると、まるで野盗か山賊のごとく、必ず喧嘩を売ってくるクセに」
「私、そこまで無法者だった!? いや、まあ間違ってはいないけどさ、も、もうちょっとこう、言い方を……。ライバル同士の勝負、とか……」
もにょもにょ言うゆんゆんの傍に、二人組が近づいて来る。
ふにふらとどどんこだ。
「ゆんゆんおはよう! 昨日はありがとね! 助かったあー! やっぱ、持つべきものは友達だよね!」
「そうそう、ありがとね! さすがゆんゆん!」
「あ、その……。わ、私も、友達の助けになったのならよかったよ……!」
ゆんゆんがパアッと顔を輝かせ、笑みを浮かべた。
……なにがあったんだろう。
「よーし、お前ら席に着けー! では、出欠を取る!」
ゆんゆんに聞こうか聞くまいか迷っていると、担任が来てしまった。
――出欠を取り終えた担任が、魔法の詠唱文を黒板につらつらと書いていく。
魔法を習得するには、ただスキルポイントを貯めればいいだけではない。
まず、習得したい魔法の詠唱を全て覚えなければならない。
そして、魔法が少なく詠唱の必要もない初級魔法とは違い、上級魔法の習得にはそれなりに手間が掛かる。
が、主席の私は既に全魔法の詠唱を丸暗記してしまっている。
そして、それは私の隣で退屈そうにしている、成績二番手のゆんゆんも同じらしい。
暇を持て余した私は、ゆんゆんにちょっかいを掛ける事にした。
『ふにふら達と、昨日何かあったのですか?』
ノートの切れ端にそんな事を書き、それを丸め、ゆんゆんの机の上に飛ばしてやる。
ゆんゆんがそれに気がつき、私からのメモを読むと……。
『友達同士の秘密な事だから、ライバルのめぐみんには言えない』
そんな返事が書かれたメモを、私の机の上に転がしてきた。
…………凄く、イラッときた。
『万年ぼっちだった子が、友達ができて一日二日経っただけで、随分大きく出ましたね』
そんなメモを送ってやると、
『めぐみんだって、なんだかんだ言って結構ぼっちじゃない』
そんな返事が転がってきた。
ゆんゆんの方をチラッと見ると、こちらを見て勝ち誇った様にニマニマしている。
………………。
『新しい友達ができたから……。……それで、私に勝負を挑まなくなったんですね? ゆんゆんに友達ができて嬉しい反面、寂しいですね……』
『ちょっと待って、ごめん、ごめんね? 別に、そんなつもりで勝負を挑まなくなったんじゃないから! 単に、昨日色々あったからそんな気分じゃなかっただけで……!』
『いいんです、いいんですよ、私の事は。でも、なんだかんだ言って、毎朝のゆんゆんとの勝負、結構楽しみにしてたんですよ? お弁当的な意味だけではなく』
『違うから! 本当に! 本当に、違うから! 私もめぐみんとの勝負が楽しみで、毎日お弁当作るのも楽しみで……!』
『……そう言ってくれるだけで十分です。私達、きっとライバル同士でさえなければ、いい友人になれたと思いますよ?』
…………。
私がそこまで書いて送ったところで、ゆんゆんの返事が止まった。
ゆんゆんの方をチラ見すると、真っ赤な顔で何かを書きかけて固まっている。
遠目でなんとなくゆんゆんの手元を見ると、
『いつか、めぐみんと……友』
まで書いたところで止まっていた。
そんなゆんゆんの様子を見て、私はある事を書いたメモを丸め、固まっているゆんゆんの視界に入る様にペシと飛ばす。
目の前に転がってきたそれを見て、赤い顔で固まっていたゆんゆんがハッと顔を上げた。
なんだか期待が入り混じった様な顔で目を潤ませながら、飛ばしたメモを開き……!
『……とでも言うと思ったか? バカめ!』
――紙を見て椅子を蹴って立ち上がったゆんゆんが、泣きながら襲い掛かってきた。
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