1-8
「らっしゃい! 紅魔族随一の、我が喫茶店にようこそ! ひょいざぶろーさん家の娘のめぐみんじゃないか。聞いたぞ、学校で頑張ってるらしいな。紅魔族随一の天才だって評判だ。外食とは珍しいな、何にするんだい?」
「カロリーが高くて腹持ちの良い物をお願いします」
「めぐみん、女の子の注文の仕方じゃないわよ! あの、店主さんのオススメの物で……」
里に一つしかない喫茶店のテラスで、私とゆんゆんはだべっていた。
父の知り合いらしい店主がメニューを差し出し。
「オススメか。今日のオススメは、『暗黒神の加護を受けしシチュー』、または、『溶岩龍の吐息風カラシスパゲティ』だな」
「カラシスパゲティで」
「私はメニューにある、この、『魔神に捧げられし子羊肉のサンドイッチ』をください」
「あいよ! 溶岩龍の吐息風カラシスパ、魔神に捧げられし子羊肉のサンドイッチだな!ちょっと待ってな!」
「カラシスパゲティで!」
なぜか真っ赤な顔のゆんゆんが名称を訂正する中、私が備え付けの果汁入りの水をちびちび飲んでいると。
「ねえ、めぐみんめぐみん。その、突然だけど、訊いてもいい?」
「なんですか? ご飯奢ってくれましたし、大抵の事なら答えますよ。私の弱点とかですか? 今の弱点は甘い物です。食後のデザートが弱点ですね」
「そんな事聞いてないわよ! それに、どこが弱点なのよ、いつもモリモリ食べてるじゃない!」
「甘い物は乙女の敵って言うじゃないですか。それで、何が聞きたいんです?」
先を促してやると、ゆんゆんが途端にモジモジしだす。
どうもこの子を見ていると、嗜虐心が煽られてしまう。
「ねえめぐみん、めぐみんって、好きな男の子とかいる?」
「ゆんゆんが色気づいた!」
発言を受けて立ち上がった私に、ゆんゆんが泣きそうな顔で慌てて言った。
「ち、違うから! ほら、女友達との会話ってさ、普通は恋バナとかする物なんでしょ!?そういうのに憧れてただけだから! 別に、好きな人がいるとかじゃないからっ!」
その言葉に安心し、再び席に座り直すと、
「何と言うか、ゆんゆんは紅魔族の中でも変わってますよね。聞きましたよ、体育の時も格好良いポーズを恥ずかしがってロクに決められないとか」
「や、やっぱり私が変わってるの!? 私、小さな頃から、この里の人達って実は変なんじゃないかって思ってたんだけれど……」
私の言葉に落ち込む、変わり者のゆんゆん。
彼女がクラスの中で浮いてるのは、こういった所があるからかもしれない。
「で、ゆんゆんはどんなタイプの男性が好みなんですか?」
「えっ!?」
私に話を振られ、目を白黒させて赤くなるゆんゆん。
「するんでしょう? 恋バナ。ちなみに私は、甲斐性があって借金をするなんてもってのほか。気が多くもなく、浮気もしない。常に上を目指して日々努力を怠らない、そんな、誠実で真面目な人が良いですね」
「誠実で真面目な人、かあ。めぐみんて、意外と優しかったり面倒見がいいところもあるから、その真逆なタイプのどうしようもなくダメな人に引っ掛かりそうな……痛い痛い!じょ、冗談だから! ……私は、物静かで大人しい感じで、私がその日にあった出来事を話すのを、傍で、うんうんって聞いてくれる、優しい人が…………」
――穏やかな昼下がり。
自称私のライバルと、取りとめのない話をしながら家に帰った。
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