1-7
「ねえ知ってる? 今から七年前。私達がまだ子供の頃にも、邪神の封印が解けそうになった事があったんだって。邪神の墓の前に、大きなクレーターがあるでしょ? あれって、流れの魔法使いが邪神を再び封じた跡だって話よ」
教室に戻ると、クラスメイト達はそんな話で持ちきりだった。
この田舎では、こんな怪しげな噂でも十分話の種になる。
子供の頃の事なのであまりよく思い出せないが、その流れの魔法使いとやらが、私を助けてくれたフードの人だという事は分かった。
学校の教師達は邪神の調査に乗り出すとの事で、私達は今日はこのまま帰れるらしい。
クラスメイト達が、家が近所の子達と連れ立って帰って行く中、私とゆんゆんだけが教室に取り残された。
我が家は紅魔の里の隅に建っているので、私のご近所さんはこのクラスにはいないのだ。
私が置いて行かれたのは、それ以外にも、買い食いしているクラスメイトを見つけては、横をちょろちょろくっついて、「美味しそうですね、美味しそうですね」とたかっていたのも原因の一つかもしれない。
仕方なく一人で帰ろうと席を立つと。
「あ…………」
同じく教室に残っていたゆんゆんが、呼び止めるように片手をこちらへ突き出したまま、小さな声を出した。
「なんですか?」
「えっ! い、いや、その……。めぐみんの家って、私の家への途中にあったなって思って、そ、その……」
ゆんゆんの家は、紅魔族の長という事で、里の最奥に建てられている。
私の家に寄ると、明らかに遠回りになるはずなのだけれど……。
「……一緒に帰りますか?」
「いいの!? あっ、でも私達はライバルだし、こうして馴れ合うのは本当は……!」
ぱあっと顔を輝かせた後、面倒臭い事を言い出したゆんゆんを置いて、とっとと教室を出て行くと、ゆんゆんが半泣きで追いかけてきた。
「待ってよ! あ、明日から! ライバルに戻るのは明日からだから!」
――ゆんゆんを連れて外に出ると、未だに空がどんよりと曇っていた。
担任は、これだけの天変地異をあの演出のためだけに行ったのだろうか。
あの瞬間のためだけに高価な焚き上げの護符を惜しげもなく使う辺りは、流石は一流の紅魔族だ。
基本的に色々ダメ人間な担任だが、そこだけは認めている。
帰り道をてくてく歩いていると、後ろからついて来ていたゆんゆんが、おずおずと声を掛けてきた。
「ね、ねえめぐみん。時間ある? その、よかったら、なんだけれど……」
ゆんゆんが、どこかに寄って軽い物でも食べないかと誘ってきた。
しかも、奢ってくれると言う。
「もちろん、私に断る理由なんてありませんが。どうした風の吹き回しなのです?」
「えっ! いや、ちょっとお腹空いちゃって……」
恥ずかしそうに照れながら言うゆんゆんに。
「まあ、育ち盛りですししょうがないですが。女の子が、あまり食い意地張っているのはどうかと思いますよ?」
「ちょっと待って! めぐみんがそれを言うの!? 大体、私のお昼をめぐみんが食べちゃったせいでお腹が減ってるんだけど! そ、それに……」
ゆんゆんが、途端に小声になる。
「と、友達と買い食いとか、どこかに寄り道して帰るとか……その……。ちょ、ちょっと楽しみにしてたって……言うか……」
「えっ? なんだって?」
小声でぼそぼそと呟くゆんゆんの下に、わざわざ引き返して耳を寄せて聞き返す。
赤い顔をして何でもないと言い張るゆんゆんが、泣き顔でハッキリとさっきの言葉を言うまで、私は何度もしつこく聞き返してやった。
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