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「ねえめぐみん。どうして私の席の前で、スキルアップポーションをこれみよがしに見せびらかしてウロウロするの? 何か言いたい事でもあるの?」


「別に、言いたい事なんて何もありませんよ? ……それはそうと、ゆんゆんの今日のお昼のお弁当美味しそうですね」


「そ、そう? めぐみんに盗られる分とは別に作っておいたヤツなんだけど……。あ、あげないから! 勝負用のと違って、このお弁当を盗られると私のお昼がなくなるし、勝負はしないから!」


「……」


「やめてよ、目の前でポーションをチャプチャプさせないで、それさっさと飲んでよ!」


「…………」


「や、やめてったら! あげないから! そ、そんな悲しそうな目をしても……。…………は、半分しか……あげないから…………」



 ――ゆんゆんから貰ったお昼を食べていると、校内放送が流れた。


『本日、午前から突然降り出した謎の大雨は、ぷっちん先生の見立てによりますと、紅魔の里の片隅に封印されていた、邪神の仕業に違いないとの事です。校長先生が調べたところ、確かにこの大雨は魔力による干渉の跡が見られ、人為的に降らされた雨であるとの判断が下されました。各教師は、この雨の制御のため午後の授業は中止。生徒は、突風、落雷、大雨により、帰るのは危険ですので、各自校内で自習をしていて下さい』


 担任は、邪神に罪をなすりつけたらしい。

 これをネタにどうやって晩ご飯を奢らせるかを思案していると、数名の生徒達が立ち上がった。

 暇を潰すために、学校の図書室へ向かうらしい。


 ――私も調べたい事がある。


 ゆんゆんから貰った弁当をかき込むと……。


「は、半分って言ったのに! 私、半分しか上げないって言ったのに!」


 弁当箱をゆんゆんに返し、私も図書室へと向かった。

 

 ――魔法使いを多く輩出する紅魔の里の学校だけあって、図書室には相当数の本がある。


 怪しげなおとぎ話の類いから、何の役に立つのか分からないハウツー本まで。

 勝手について来たゆんゆんは、ハウツー本のまとめられている棚で何かを探している。


『読むだけで友達ができる禁断の魔導書』『タニシですら社交的になれる本』……。


 ゆんゆんが、そんなタイトルのよく分からない本を手に取っているのが見えたが、目をキラキラさせて読んでいるのでそっとしておいてあげよう。


 私は目当ての本を探しながら、並べられた本のタイトルを指でなぞっていく。

『紅魔族誕生秘話』『魔道技術大国が滅ぶまで』『地獄の公爵シリーズ第四弾 見通す悪魔』『異世界からの居住者がいるとの噂の真相』……。


 どうでもいい本ばかりが目につく中、ようやく目当ての本を見つけ出した。


『爆裂魔法の有用性』


 その本を手に取り、ペラペラとめくっていく。


『爆裂魔法とは、究極の破壊魔法にしてあらゆる存在にダメージを与えられる最強の攻撃魔法である。現在、その魔法の習得方法は殆ど伝えられてはおらず、長く魔法の研究に携わった者か、長い年月を生き抜いた人外の魔法使いの間にしか知られていない』


 ページをめくる指がそこで止まった。


 ……そんな魔法を習得していたあの人は、一体何者だったのだろう。


『そして、その習得の困難さに比べ、あまりの使い勝手の悪さから、これを習得している魔法使いは地雷魔法使いと呼ばれ、冒険者達にパーティー入りを断られる事が多々ある』


 そこまで読んだところで、私の爆裂魔法に対する想いがほんの少しだけグラついた。

 子供の頃に見た、全てを蹂躙するかのような破壊魔法。


 あのフードの人とあの魔法に、ずっと憧れを抱いていたのだが――


『並みの才能の者ではまず習得が不可能であり、たとえ習得が出来たとしても、消費魔力の多さから魔法を使用できない場合もある。なぜこのような魔法が開発されたのかすらも謎で、長い時を生きる人外の魔法使いですらが、余ったスキルポイントを使い、酔狂で習得するというのが現状であり…………』


 ……それ以上読むのを止め、本を棚へと押し込んだ。


 これを読み続けていると、なんだか挫けそうになってくるからだ。


 と、戻した本の隣に気になるタイトルの本を見つけた。


『暴れん坊ロード』


 妙なタイトルに惹かれ、そこに置いてあった本を手に取る。


 ――それは、痴呆症になった元君主の老人が、二人のお供兼介護の者を引き連れて、世直しと称して領地を徘徊する物語だった。


 ひょんな事から老人の身分を知り、老人に悪の代理領主達の不正を訴える村人達と、いいや、その村人達が嘘をついているのだと悪あがきする、悪の代理領主。

 老人は喧嘩両成敗と宣言し、村人達と悪の代理領主に斬りかかり、村人達と領主は一致団結し、これを撃退。

 このような地は焼き払ってくれるわといきり立つ老人を、ご飯の時間ですよとなだめて連れて帰るお供の二人。

 共に戦った村人達と領主は打ち解け、団結する事の素晴らしさを知った彼らは、やがてその地にどこにも負けない巨大都市を築き上げる事となる――


 ……二巻はどこだろう。


 その本の続きはないかと本棚を探していたその時だった。


「ちょっとあんた、何それ? ちょーウケる! なになに、友達いないの?」


 静かな図書室の中、そんな場違いな声が響き渡った。

 見れば、そこにはクラスメイトの一人とゆんゆんの姿がある。


 これは……、この展開は……!


「と、友達は……。その……」


「いないんでしょ? でなきゃ、そんな……。……『魚類とだって友達になれる』……?ね、ねえ。その本は止めときなさい。せめて哺乳類にしときなよ……」


「そこまでです!」


 ゆんゆんとクラスメイトの前に飛び出すと、クラスメイトをビシと刺す。


「いたいけな少女をからかい、いたぶり! その後、傷心の少女の心につけ込んで友人顔をし、あれこれと理不尽な要求をしようというあなたの企み! 他の人の目はごまかせても、この私の目は騙せませんよ!」


「ええっ!?」


 私に企みを看破されたクラスメイトは、動揺を露わにする。


「ちょ、ちょっと待ってマジ意味分かんない! ゆんゆんが面白い本を持ってたから、声かけただけで……」


「め、めぐみん、どうしたの? 何か、変わった本でも読んで影響されたの? その、話し掛けられただけで……」


 クラスメイトとゆんゆんが口々に言ってくるが、


「いえ、なんとなくトラブルの臭いがしたので、暇なので首突っ込んでおこうかなと。それと、私は先ほどの授業をサボってしまったので、一人だけ名乗りを上げていなくて欲求不満が溜まってまして」


「「理不尽!」」


 同時に叫ぶゆんゆんとクラスメイトの声を聞きつけてか、図書室のドアが開けられた。


「おいお前ら、うるさいぞ。図書室では静かにしろ。邪神の降らせた雨はどうにか止んだからな。校長と俺の力が、どうにか邪神の力を上回った様だ」


「先生、私達には、抑えられていた俺の魔力が溢れ出してしまったのか……! とか言ってませんでした? 何でも邪神のせいにしちゃ可哀想ですよ」


 言う事がコロコロ変わるいい加減な担任にクラスメイトがツッコむが。


「いや、里の者が邪神の墓を見に行くと、封印を触ったバカ者がいたのか、本当に封印が解けかけていてな。封印の欠片が数枚、見つかっていないそうだ。墓に封じられている邪神や、邪神の下僕がいつ飛び出して来てもおかしくない状態だったらしい。邪神を対象とした封印なので、封印の影響をあまり受けない邪神の下僕が、封印の隙間から這い出す可能性があるらしい。再封印が終わるまでは、各自、一人で帰らず集団で下校するように」


 担任がそんな事を言ってきた。

 

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