1-3


 ゆんゆんから巻き上げた今日の朝ごはんを食べながら。


「めぐみん! ここに、デザートに最適な、天然ネロイド配合の高級プリンがあるわ!」


「ありがとうございます。あ、スプーンがないですよ」


「あっ、ご、ごめんね、ちょっと待ってて」


 自分の席で黙々とゆんゆんの弁当を食べながら、いそいそとスプーンを出すゆんゆんを眺めていると、ハタと気づいたゆんゆんが、プリンとスプーンをバンと机に叩きつけた。


「違うでしょ! プリンを賭けて、勝負をしようって言っているの! どうして私が甲斐甲斐しくめぐみんに尽くさなきゃならないのよ!」


「私、毎日、ゆんゆんに飼われている犬猫の気分でいるのですが。なので、そろそろ一緒に帰ってあげてもいいですよ? そして、帰りに買い食いでもしましょう」


「えっ! い、いいの……? ってそうじゃないわ! 私とあなたはライバル同士でしょ!そ、それに、どうせ買い食いって言っても、私が買った食べ物を狙う気満々な癖に!」


 私はいつの間にライバルになったのだろう。

 取り敢えず、食べ終えた弁当箱をゆんゆんに返す。


「ごちそうさまでした。今日の味付けは良かったですよ。とても美味しかったです。明日は、タンパク質が食べたいですね」


「あ、そ、そう? じゃあ明日は……」


 弁当箱を受け取って、嬉しそうにいそいそと鞄にしまうゆんゆんが、ハタと気づいた。


「だ、だから、違うでしょ! どうして私が……!」


「席に着けー。授業の時間だ。というか、学校にプリンなんて持って来るな。没収!」


「「ああっ!」」


 いつの間にか教室に入って来た担任にプリンを取られた。

 私の隣の席で、プリンがー……とメソメソしているゆんゆんを他所に、授業が始まる。


 担任は黒板に魔法の系統を書き上げると、それをノートに写すように促す。

 私達が無言でノートに書き写しをしていると、担任は、教壇で堂々とプリンを頬張りながら魔法の解説を始めた。


「よし。今日は、特殊な魔法について説明する。まずは、ここに書かれている三つの魔法。初級、中級、上級魔法。これらについては、もう説明の必要は無いだろう。そしてお前達は、上級魔法こそが最高の魔法だと思っている事だと思う」


 担任は、黒板に更に三つの魔法を書き出した。


「この世には、上級魔法の他にも、炸裂魔法、爆発魔法、爆裂魔法と呼ばれる、特殊な系統の魔法が存在する。これらは非常に高い威力を誇るものの、習得が難しい上に燃費が悪く、あまり使われる事がない」


 担任のプリンにのみ目がいっていた私は、爆裂魔法という単語にピクリと反応した。


「まずは、この炸裂魔法。こいつは岩盤ですら砕くほどの威力を有する魔法で、これを覚えている魔法使いは、国の公共事業の際に呼ばれる事がある。とはいえ、習得にかかるスキルポイントは上級魔法に匹敵する量が必要だ。なので、これを覚えるのは、土木関係の国家公務員にでも成りたいのでなければ避けた方がいいな」


 炸裂魔法。炸裂魔法か……。

 私はノートに炸裂魔法としっかり書き、担任のその後の説明を一言一句聞き逃すまいと傾聴する。


「続いて、爆発魔法。これは伝説的なアークウィザードの得意魔法だったものだ。その爆発魔法の連発の前に、彼女と相対したモンスターは為す術もなく葬り去られた。だが、この魔法は、一発一発の魔力消費が尋常ではない。並みの魔法使いでは、数発撃つのが限界だろう。よほど魔力に自信があっても、これを覚えるのはあまり現実的ではないな」


 爆発魔法――爆発魔法――

 私はせっせと爆発爆発と書いていく。


 と、担任がそこでチョークを置き、プリンの残りを頬張る作業に戻ってしまう。

 むう、肝心の爆裂魔法の説明がまだなのに。


「先生。残り一つの魔法、爆裂魔法についてですが……」


 手を上げて立ち上がった私にクラスメイトの視線が集まる中、担任は笑い声を上げた。


「爆裂魔法は止めておけ。バカ高いスキルポイントを貯めに貯めてようやく習得したところで、よほどの魔力を持つ者でも、消費魔力の凄まじさに一発も撃てない事が多い。万一これを撃てたとしても、その威力は凄まじく、モンスターだけを仕留めるに留まらずに、周囲の地形をも変えてしまう。ダンジョンで唱えればダンジョンそのものを倒壊させ、魔法を放つ時のあまりの轟音に、周囲のモンスターをも呼び寄せる事になるだろう。そう、爆裂魔法は、ただのネタ魔法なんだよ」

 

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