恵美の場合Ⅱ
もう木曜日になるというのに仕事が片付かない。今週の頭には、木曜日までにあらかた片付けようと思っていたのに。
恵美は大学で児童心理学を専攻し大学院まで進み、小学校教諭の免許や幼稚園教諭の免許、臨床心理士の資格まで取得していた。
今はその資格と経験を生かし、児童カウンセラーを育成する機関に勤めている。講師として教える事もあるが、多くは裏方仕事(講師陣をまとめたり、スケジュールを組んだり、営業に当たったり、社内のまとめ役のようなものだ)に奔走している。
「これ、今日までにまとめてって言ったよね?なんで出来てないの?そんなに大変な作業じゃないでしょ。」
今年中途で入ってきた青木 ─ 26歳、男性 ─ に、パソコンの画面を見せながら問いかけた。
「す、すみません。どうしても計算が合わなくて・・。」
「計算が合わなかったり、とにかく分からない上手く事が進まない事があったらすぐに報告してって言ったよね?・・もう合わないのは大丈夫なの?」
「は、はい・・。あとは表に出せば出来上がります、すみません・・。」
「じゃあ出来るだけ早くお願いね、私教室の方顔出さなきゃだから。」
そう言って、恵美は席を立った。
青木は頭は良いのかもしれないが、いかんせん要領が悪いというかのんびり屋というか、とにかく作業が遅かった。それとどこかいつもおどおどしている。
木曜日までにあらかた片付けたい仕事も、青木の所で止まっているのが多いのも確かだった。
── 優しい人柄ではあるのかもしれないけれど。
誰にでも自分から挨拶をし、顧客に丁寧に接する姿勢は評価していた。
優しいんだけどね。
そんな言葉が頭をかする。
いけない、仕事とプライベートを一緒にするものではない。
優しさだけが取り柄の昔の恋人達は、優しいがために皆んな元彼女を放っておけなかったのだ。
「恵美は一人でも大丈夫だろうけど、あの子は・・。」
一人でも本当に大丈夫な女が、この世にいるのだろうか。
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