凛と伊織の場合

 約束の時間まで20分と少し。

 凛は、伊織との待ち合わせ場所に程近い喫茶店で珈琲を飲んでいた。

 昔からの癖で、凛は待ち合わせの時間より最低でも30分は前に到着するようにしている。─ きっと防衛反応なのだ ─ と凛は思う。

 仲間達が先に集まっている場所に、後から加わるのは、凛にとってはとても恐怖だった。だから ── 待ち合わせよりずっと前に到着し、時間までお茶を飲む、それが凛の行動となって染み付いた。


 

 「久しぶり。」

 喫茶店から出て待ち合わせ場所 ─ 昔から皆んなで集まる時はいつもここ。駅の前の広場、大きな赤色のオブジェクトの前 ─ で、自分の靴を見つめながら立っていると頭上から懐かしい声が聞こえた。

 

 紺色の、先の丸いヒールのない靴。つま先には小さな花の飾りが付いている。

 声の主の服装によく似合うだろうな、と思い顔を上げ

 「久しぶりだねー、伊織!」

 と、思いの外はしゃいだ声で凛は伊織に微笑んだ。


 「元気だった?葵に会いに来てくれて以来だね。1年振りくらい?」

 凛の横にすすっと寄ってきて、伊織は言う。

 伊織は背が高い。凛が小さめなせいもあるが、それを差し引いても背が高く程よい肉付きでとてもスタイルがいい。白い長めのシャツにストライプのバミューダパンツ、それに紺の靴。伊織のスタイルの良さをよく引き出している。凛は、昔からこのセンスとスタイルが憧れだった。

 

 「うん、元気だったよー。と言っても相変わらず何も変わらないけど。笑」

 本当は、変わった事 ─ 弘樹との付き合いは誰にも言っていない ─ はあるのだけれど、それは言わなくてもいい事だと凛は思っている。

 

 「葵ちゃんのお迎えの時間は何時だっけ?それまでは大丈夫?」

 「今日は18時までに迎えに行けば大丈夫だから・・それまでゆっくり話そう。でもごめんね、こっちの都合に合わせてもらっちゃって・・。」

 伊織は申し訳なさそうに顔の前で手を合わせて言った。

 「大丈夫大丈夫、気にしないで。私暇だし、いつでも大歓迎だよー。」

 私暇だし、が口癖みたいになってきたな、なんて思いながら凛は笑顔で応えた。

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