陽子の場合Ⅱ
数時間の新幹線に乗車した後、4年前に離れた故郷の地に降り立った。相変わらず、新幹線の停まる駅だというのに閑散とした駅前。
今日はパートが休みだという母が、車で迎えに来てくれる事になっている。
離婚をしたというのに、陽子の両親は何も問い詰めてはこなかった。元々放任主義というかあまり干渉しない親である。離婚に関しても、陽子ならば然もありなんといった感じなのだろう。ただ ──
プップッと短くクラクションが鳴った。
駅前のローターリー部分、送迎の車が停められるようになっているスペース、そこに備え付けられたベンチに座ろうとした所だった。
クラクションの鳴った方に目を向けると、青色の軽自動車。── 姉の車だ。
「陽子、おつかれー。」
ガチャっと運転席のドアを開け、姉が降りてきた。
「荷物は?これだけ?」
陽子の手から赤いスーツケース(独身の頃から愛用している年季物)を奪い取ると、ササッとトランクに積み込んだ。
「・・お母さんは?」
やっと出てきた言葉がこれである。
「ああ、お母さん急に休む人出ちゃって。パート行ったわ。悠美も今日帰り遅いし私ちょうど暇で良かったわぁ。」
悠美というのはお姉ちゃんの娘。今小学校4年生である。
「荷物これだけなんだよね?じゃあ乗りなー、帰るよ。」
返事をしない陽子を少し強い目で見つめ、そのまま姉は運転席に座った。
「子供がいらないなんて女じゃない。女じゃないどころか人間じゃないわ。そんなの奏太くんがかわいそう、奏太くんの為に離婚して正解だわ。」
離婚をすると両親に告げに来た日の夜、姉と2人で少し飲みに出かけた。
姉とは昔から仲が良く、独身の頃は恋愛相談もよくしていたし割と何でも話していた方だった。そんな関係だったから、陽子は自分が結婚に向かないであろう事、離婚の大きな原因は自分が子作りを拒否している事、そして今後も子供はいらないと思っている事を正直に話した。
それなのに、まさかこんな言葉を吐かれるなんて。
あの日以来、陽子は姉を許せないでいる。
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