由香の場合
今日も憂鬱な朝が来る。
月曜日。土曜日曜と死んだように過ごしていたのに、今日からまた一週間生きた気のしない日々が始まる。
由香は大変に美しい女性だった。
スラリと伸びた手足に小ぶりだが形のいい胸、そしてきゅっと引き締まったウエスト。切れ長の目も少し大きめの口も、由香のスレンダーな体型によく合っていた。
それでいて「天然」と言われる性格が、出会う男性を虜にする。事実、由香はとてもよくモテた。
一週間7日のうち、由香が生きていると実感するのは水曜日だけだ。水曜日はあの人が家に来る。水曜日はあの人と一緒に住んでいる人 ──世間では嫁と言うのだろう── が夜勤で家にいないから。
水曜日、仕事終わりにいつもの居酒屋であの人と待ち合わせる。その日はいつもより少しだけ女性らしい格好をする。由香の、長く細い膝から下を綺麗に見せてくれるひざ上丈のワンピースにパステルカラーのボレロ。背が高くない事を気にしているあの人の為に、ヒールは3cmに抑えたビジューのあしらわれた靴。
普段はパンツスタイルの多い由香の、週に1度だけの秘密のおしゃれ。
30歳も過ぎ、一応正社員ではあるものの薄給の事務員。
夫もいない、恋人もいない。子供もいない。
あの人のそばにいると決めて10年。
─── まだあの人の離婚は成立しない。
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