名探偵への道

桐華江漢

第一章

名探偵に必要なもの

 『名探偵』

 

 それは探偵を目指すものなら誰しもが憧れ、そして目標とする頂だ。そう呼ばれることはそれだけ実力のある探偵と認められた証であり、誰もが手に入れたい称号だろう。


 事件に一度遭遇すれば類い稀なる頭脳を活用し、塵一つ見逃さない観察眼を駆使し、そして一寸の狂いもなく華麗に解決する。そんな名探偵の姿に人が羨望の眼差しを向けるのも無理はない。


 さらには名探偵は本人だけでなく、知り合い、家族にいるだけで誇りに思い、自慢できる対象人物だ。一言存在を口にすれば周りからは羨望を通り越し、崇拝の眼差しを受けることさえある。それだけ『名探偵』とは脚光を浴びることができる職業なのだ。


 そして、ここにも名探偵である父を持ち、憧れている少年がいた。


******


『ねぇ、父さん』

『なんだい?』


 少年が机に向かって調べものをしている父親の背中に声をかけると、少年の父親が振り向いた。


『名探偵になるコツって何?』

『コツ? そんなものはないよ』

『え~? でも父さんは名探偵じゃん。何かあるんでしょ?』


 少年はお菓子をせがむように父親に寄り添った。


『何もないよ。名探偵になるのにコツも近道も存在しない。一生懸命努力して、日々怠ることなく頑張った人だけがなれるんだよ』

『例えばどんなことするの?』

『勉強はもちろんのこと、体力も必要だよ。頭だけが良くても、運動ができなければ犯人を捕まえられないからね。身体を鍛えて、頭も鍛える。これはとっても大事なことだよ』

『うぇ~。僕、勉強は嫌いだよ』

『じゃあ、努力しないとな』


 落ち込む少年に微笑み、頭を撫でる父親。少年はくすぐったそうに身じろぐが、払うことなくそれを受け入れ続けた。


『じゃあさ、じゃあさ! 名探偵に一番大事なことは何?』

『大事なこと?』

『うん!』

『そうだな……。これは父さんの持論、父さんの考えだけど』

『なになに?』


 少年は目を輝かせながら父親の言葉を待った。



『名探偵に一番大事なことは――』


 

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