case1-3 おおきくなったら何になる
俺は部屋のベッドに横になり、スマホで検索してみることにした。
「二十歳」
すると画面には、たくさんの目を疑うような内容がズラリと並んでいたのだった。
「二十歳までにしておきたいこと」
「二十歳になるみんなへ」
「二十歳になったときの心得」
まるで二十歳に必ず死ぬみたいな……まぁ、それがこの世界だ、当たり前だろうな。それにしても、二十歳を前にして終活だなんて、元いた世界では誰もが予想すらしなかっただろう。
いろいろなページを見ていて気がついた事があった。どのページにも、特徴的なエンブレムが貼り付けられていた。エンブレムの中央には、黒いマントを着た人の形をした何かが両腕を広げて立っていた。フードを深く被ったデザインで、顔は見えない。エンブレムの下部には、「the SAVIOR」と記載されている。……「救世主」? この世界で主流の宗教だろうか、「救済」の単語が目立つ。
しかしあるページを開いた瞬間、背筋が凍りついたのを感じた。
「
…………
二十歳になれば、誰もがおぞましい化物と化すのです。
それを回避するために、事前に人生の終え方を選択しておきましょう。
おすすめは、
…………
」
「化……物?」
何を思ったのか、俺は別のことを調べ出した。
「二十歳 化物」
なぜか、俺の求めていた内容がひとつもなかった。どれだけ探しても二十歳になってから後のことを書く記事が見つからない。
あるのは、二十歳=化物、死ぬときの心得、ばかりだ。
他にも幼児用の絵本と思われるデータにさえ描かれていたのにはさすがに驚いた。泣いている少年少女の前にどす黒くおぞましく描かれた、化物と思しきものが黒い腕を広げて今にも目の前の子供たちを襲おうとしていた。
これ以上は何もわからないことを察してスマホの画面を閉じた。スマホをベッドに放り投げ、そのまま仰向けになる。尻に違和感を感じポケットをまさぐると、あの黒ずくめの女から渡されたカードが入っていた。すっかり忘れていた。なんとなく、ぼーっとカードを眺める。
「Yu-to: The World Without Adults……」
そこには、俺の名前とともに「大人のいない世界」と洒落た英語が刻まれていた。真っ白だったカードは、今は若干灰色を帯びている。
しばらくカードを眺め、同じようにベッドに放り投げて俺はボソッと呟いた。
「あと二年、か」
また、あの恐怖がどこからともなくやってきては馴れ馴れしく俺を包んでいく。
そして、思った。
「まだ死にたくない」
、と。
そのことを俺は彰に話すことにした。あいつなら、わかってくれるはずだ。
放り投げたスマホを手に取り、彰に電話した。
すぐに電話に出た彰は、「この間は大丈夫だったか? またうちに来いよな」なんて呑気に言った。今すぐ行く、と伝えて電話を切った。
彰の家に着いて、若干控えめに、話をしてみた。無言が続いたため、落としていた視線を上げてぎょっとした。
彰は今まで見たこともないような、俺を睨むような、蔑むような表情をしていた。そんな彰の口がゆっくりと開く。
「勇人、お前やっぱおかしいぜ。死にたくない? 今はわかるけどよ、二十歳になっても、だろ? 大丈夫か? 冗談だろ? お前……二十歳って、化物になるんだぞ? それなのに……正気か?」
どうやら俺は完全に頭がイッちまったらしい。この世界では、俺の方が異常なんだ。
彰はそのまま続けた。何か恐ろしいことが起こるとでも言いたげな表情だ。
「そんなこと、もう二度と言うなよ。知られたら、どうなるかわかってんだろ? やめろよ、俺は、まだ……お前を失いたくはねえ……」
「……知られたら、どうなるんだよ」
彰は半ば呆れながらも説明した。
「……死ぬんだよ」
「死ぬ? 二十歳じゃなくてもか?」
「あぁ、死ぬんだよ……いや、殺されるんだ」
「殺さ、れる……?」
一体何に……と聞こうとした俺は、彰の目が笑ってはいないことに気がついた。口元は緩んでいた。背筋を冷たい何かになぞられる心地がした。
「でもさ~、たまにいるんだよな。勇人みたいに考えるやつが、さ」
「そいつらは……」
「あぁ、殺されるんだ」
「……」
「……」
「……」
「なぁ……勇人、知ってるか?」
「……何をだよ」
「『化物』」
「お前……! 知っているのか?」
「見たからな」
「見た……?」
「あぁ、見た」
彰は、手の平に視線を落とした。
「そして、殺してやったんだ。……この手で」
彰の声がだんだんと大きくなるのがわかる。
「殺してやったって……人間だろ? お前それ……」
「人間『だった』だろ」
「二十歳になると化物になるって、そもそもなんなんだよ化物って……」
「頭がイカれるんだよ」
「イカれるって……?」
「さぁな、化物は化物だろ」
「さぁなってお前わかりもしねぇのに」
「は? わかるって何をだよ? 化物か? 知りたがる奴なんていねーよ」
「そしたらお前の姉貴だって……!」
「姉貴は、」
彰の動きが止まった。手の平が小刻みに震え出す。
そして、
「いや……違うな、化物、化物は、お、俺が……殺してやった……」
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