鋼(はがね)ギツネ3人娘

@Ukamaco

第1話

  鋼(はがね)ギツネ3人娘

 ~なるべくベビーメタルのファンになってからお読みください~


  ○エピソード1・「地球を守れ」戦う3人娘誕生


 むかしむかし、お江戸に将軍さまがいたころ、山に囲まれた丹波篠山の国に、「まけきらい」という名の稲荷神社がありました。何でも、負けず嫌いの殿様を支える神社の守護神は、やっぱり負けず嫌いのキツネたち。神社の境内で開かれた相撲大会には、強い力士に化けたキツネたちが出場し、よその国からきた力士たちを打ち負かしたそうな。殿様は大喜び。この物語は、そんな神社のそばに住む、歌と踊りが大好きな3人の少女のお話です。3人の少女は、ひょんなことから、地球を守るための戦いに巻き込まれるのです。

 

 ドンドコドン、どどんこどん、「でかんしょー♪うぇんぶりーーー♪」 

あたりがとっぷり暮れたころ、まけきらい稲荷神社の境内で、3人の少女が歌と踊りの稽古をしています。歌が上手なのは、他の2人より二つ年上の「スー」、踊りがうまくて双子みたいに似ているは「ユイ」と「モア」。3人は、お城の広場で開かれる夏祭りに出演することが決まり、毎晩集まって練習に励んでいます。

「おーい、まだ稽古しとるんか。精が出るのうー」

コバじいが、提灯を持って様子を見に来ました。コバじいは、3人が通う寺子屋の先生です。白いひげと赤いちゃんちゃんこがトレードマークです。

「みんな、そろそろ稽古はおしまいにせんか。もう真っ暗や。空には星がようけ光っとる。きれいやぞ。ほら、みんな見てみい」

「あっ、ほんと」「きれいだわー」「キラキラ輝いてる」

 3人は練習をやめて夜空を見上げます。

「あっ、流れ星っ」モアが声を上げました。

赤い星がスーーっと尾を引いて流れていきます。

「願い事しなきゃ」「早く」「はやくっ」

「歌で外国の人を楽しませたーーい」とスー。

「新しい踊りを世界にはやらせるぞーー」とユイ。

「踊りの大会で優勝するぞーー」とモア。

「あれっ、あの流れ星、なんだか変じゃない」

「上下にゆらゆら動いてる」「色も変わった」「どこかに落ちて行くみたい」

 3人とコバじいが目で追っていると、流れ星は小さくなって見えなくなりました。

「どこかに落ちてたら、大変なことにならないかしら」スーが心配そうに言いました。

「落ちたとしても、ここからは行けない遠い所じゃ。心配してもはじまらん。さあ、帰るぞ」コバじいの一言にみんな納得し、「はーい」と家路につきました。

 

ボッチャーーーン!尾を引いて流れていった星は、アジア大陸の大きい川に落ちました。辺りには家も建物もないので、誰も気づきません。しばらくの間、ブクブクブクと泡が水中からわき上がりました。ザッパーーーン!突然大きな水しぶきが上がり、ロケットのような細長いカプセルが浮き上がってきました。しばらく水面で小刻みに揺れた後、潜水艦のハッチのような扉がパカッと開きました。

ハッチの中から、銀色の宇宙服を着た人が、1人、2人、3人、順番に出てきました。人間と同じような顔、体をしていますが、よく見ると顔は緑色、手袋をした手の指は、4本です。どうやら地球の人間とは違う生物のようです。

「やっと着地したな」「ああ、でもここは水の上だな」

「早くここのモンスターを見つけて、作戦開始だ」「オウ」

緑色の顔をした人たちが何か話し合っています。そう、この人たちは宇宙人。地球から5万光年離れたサイファー星からカプセル型ロケットで地球へやってきた、人間によく似たサイファー星人なのです。

3人は、カプセルの上から、何かの液体を少しずつ垂らし始めました。

「よし、ここはこれでOK。人の多い都市部へ行こう」「オウ」

3人の宇宙人は、ハッチからまたカプセルの中に入りました。シューールルルー。カプセルは、川面の上をすべるように走り、都市部へと向かっていきました。

1カ月後、アジア大陸の主な都市に、地中から巨大なモンスターが現れました。モンスターは、街の建物を次々と破壊し、廃墟にしていきました。5頭はいると見られるモンスターは、大陸のあちこちを破壊して範囲を広げ、日本海に迫ってきました。


夏祭りが2日後に迫った夜、3人娘はその日も稲荷神社に集まって歌と踊りの稽古をしました。空には紅い月が光っています。稽古を終えて休憩していたとき、林から、聞いたことのない鳴き声が聞こえてきました。

コン、コン、キューーン、キューーン、キュルーーーン

「何かの鳴き声が聞こえるわ。苦しんでるみたい」最初にモアが声を上げました。

 キューーン、キュルーーン、キュル……

「ほんと、苦しそう。助けてあげなきゃ」とユイ。

「よし、みんなで助けに行こう。あの声は、そんなに遠くじゃないわ」

 スウがこう言うとみんな立ち上がり、鳴き声がする林へ入っていきました。

 しばらく林の中を歩くと、黄色いものが見えました。

「あっ、あれじゃない。子ギツネがじっとしてるみたい」

 3人が近づくと、体に血をつけた小さいキツネが横たわっていました。

「よしよし、もう大丈夫だよ」

 スウが子ギツネを抱き上げて言いました。

「子ギツネちゃん、どこに持っていったらいいかしら。動物のお医者さんなんて近くにいないし」とモア。

「そうだ、近くのまけきらい温泉に連れて行こう。あそこの湯は傷にいいって、聞いたことある」とユイ。

「でも、あの温泉は、子供が夜に入っちゃいけないって言われているわよ。不吉なことが起こるって」とモア。

「そんなの言い伝えよ。子ギツネちゃん、だいぶ弱ってるみたいだから、放っておくとあぶないわ。温泉へ行きましょう」

 スウが言うと、ユイとモアは「わかった」と納得した返事。

「子ギツネちゃん、傷がよくなる温泉に連れてってあげるからねーー」

「それまで辛抱するのよー」「いいこちゃんねーー」

 3人は、スウの胸におとなしく抱かれている子ギツネを連れて温泉へ歩きました。

 3人は温泉に着くと、露天の湯船の前で着物を脱ぎました。

「よしよし、怖くないからね」

 スーは子ギツネを抱きながら器用に着物を脱ぎ、抱えたままゆっくりと湯に入りました。

「あーー、やっぱり温泉は気持ちいいねえーー」ユイが腕を伸ばして言いました。

「どう、子ギツネちゃんは怖がってない?」とモア。

「大丈夫みたい。ちょっと震えてるけど、目はしっかりしてる」とスー。

 お湯につかって気持ちよさそうにしている子ギツネの体を、ユイとモアが優しくなでて上げます。

「よしよし、もう大丈夫」「傷は治るぞ。良くなる良くなる」

「ねえ、この傷って、かまれた痕じゃない。何かにかまれたのかな?」とユイ。

「そうかもね。同じキツネか、タヌキかオオカミか」とモア。

「こんな小さい子ギツネちゃんを」とユイ。

「これって、もしかしていじめ?」とモア。

「動物界にもあるのね、小さいものをいじめることが」とユイ。

「いじめはだめよ。許せない」とスー。

「そう、イジメ、ダメ、ゼッタイ」と3人は声をそろえました。

「ねえ、この子ギツネちゃん、すごーーくかわいい目をしてない?」とモア。

「ほんと、かわいい」「天使みたいな目」

「目が印象的だから、この子の名前は目太郎ってどう?」とスー。

「えーー目太郎なんてーー、ちょっとへん」とユイ。

「ゲゲゲの鬼太郎の弟みたいだよーー」とモア。

「そうかあーー。じゃあー、一文字増やしてメタ太郎ってのは」

 コンコン。そのとき、スーにだっこされている子ギツネが、うんうんと小さくうなづきました。

「ほら、子ギツネちゃんも気に入ったみたいよ」とスー。

「オッケー、異議なーーし」「じゃあ、お前の名前は今からメタ太郎だぞ」「がんばってけが治せよ、メタ太郎」3人の笑い声が響きました。

 3人とメタ太郎がお湯から上がろうとしたとき、ゴーーという音が響いて、温泉の底から渦が巻き始めました。

「えっ、何これ」「足が引っ張られるーー」「ああー、もうだめーー」

 湯船につかっていた3人は、突然できた渦巻きに引き込まれたのか、あっという間に姿を消してしまいました。

 3人は気を失ったまま、お湯にもまれるように流され、お湯のトンネルの中をどこかへ運ばれていきます。スーたちは、何か夢をみているようです。

 パッシャーーーーーン

 3人の体が、投げ出されたようにどこかに到着しました。暗い洞窟のような場所。そこにも温泉のような湯船があり、3人は天井の穴からそこへ落ちたようです。

「うーーん、ここはどこ?」最初に意識を取り戻したユイが湯船で立ち上がり、辺りを見回しました。スーとモアはまだぐったりしています。

「スーさん、モアちゃん、目をさまして」ユイは2人の体を揺さぶります。

「う、うーーん」「えっ、なにーー」2人がゆっくり目を開けました。

「大変よ。なんか、どこかわからない場所に来ちゃってるみたい」とユイ。

「ここどこーー。なんだかやばいーー」とモア。

「うーーん、とにかく落ち着こう。家に帰る道を探さなきゃ」とユイ。

「3人とも、驚かせてすまんかった。けがはないか」

 洞窟に、突然コバじいの声が響きました。

「3人に覚悟して聞いてもらわんといかんことがある」

 コバじいは、どこから来たのか、湯船の近くに歩いてきました。3人は、肩まで湯につかったまま、コバじいの顔をじっと見ています。

「わしは今、コバじいではない。まけきらいギツネ神なのじゃ。天から降りてきて、今はコバじいの体を借りてしゃべっておる。……3人には、地球を守るために、戦ってもらわなければならない」

「えっ、なになに」「なんの話?」3人ともポカーーーンとしています。

「実は今、この地球の人類に、絶滅の危機が訪れておる。遠い星から宇宙人が来て、滅亡したはずのモンスターたちを次々によみがえらせた。そのモンスターたちを自由に操り、世界中の町や村をはかいしておる」

「えーー」

「でも、どうしてキツネ神さまはそんなこと知ってるの」とモアが尋ねました。

「うむ。実は、わしは世界中のよろずの神々と、ここにある水鏡で通信しとるんじゃ。海の向こうの大陸の山神も、そのモンスターにはかなわなかったそうじゃ」

「どうして私たちが戦うの?」ユイが尋ねます。

「大メギツネの神が、おまえたち3人に力をさずけてくれたからじゃ。おまえたちが湯のトンネルで気を失っている間にな」

「えっ、力ってどんな?」とユイ。

「うむ。新しい力を説明しよう。まずスーは、鉄板にも穴を開けるほどの力強い拳と大きい声。次にユイは、10歩の跳躍で地球を1周できるほどの強い足の力。そしてモアは、どんなに速く動くものでもつかまえて投げ飛ばすことができる強い腕と手」

「えーー、ほんとにーー」とモアは自分の手を見ながらいいました。

「だが、その力を正しく使うには、修行を積まなければならない」とキツネ神のコバじい。

「えーー、どんな修行ですかあ」とユイ。

「うむ。神ばやしのみんな、出てきてくれ」

「おうっ」「おす」

 かけ声が響くと、白い着物をきた4人の男がどこからか飛び降りてきました。

 4人のうち3人は肩まで伸びた長い髪、1人は坊主頭。みんな手に楽器を持っています。

「神ばやしの4人を紹介しよう。三味線の速弾きが得意な大神と藤神。大型の琵琶を5本の指で弾く坊主頭の棒神。そして、親譲りの太鼓とドラの名手の青神。彼らの演奏に合わせて稽古を積むと、身についた特殊能力を自由自在に使えるようになる。あしたから、みっちり稽古を積んでくれ、たのんだぞスー、ユイ、モア」

「はい」「はい」「はい」

 コバじいは、そのあとばったりと倒れました。そして、まけきらいキツネ神が体から離れたのか、「うーーん、わしはどうなっとったんやろか」と眠りからさめたように立ち上がりました。その横では、3人と神ばやしの4人が早くも稽古を始めています。

 ドンドンジャカジャカビンビンビーーン。3人の動きに合わせる神ばやしの演奏の音が、洞窟に響き続けました。セイヤ、ソイヤ!3人が稽古するかけ声も響きます。

 セイヤ!ソイヤ!セイヤ!ソイヤ!はーしーれーーー!


 それから10日後。

「さあ、みんな、だいぶ腕を上げたようだな」

 まけきらい稲荷の境内で、コバじいが3人に声をかけました。

「あら、コバじい、また東京弁。またキツネ神さまが降りてきてるのね」とひそひそ声でスー。

「きょうはお前たちにいいものを持ってきた」

 コバじいは、担いでいた袋の中から、3着の服を取り出しました。

「勝負服じゃ。かっこいいぞーー」

 コバじいは、3着の勝負服を地面に並べて起きました。黒が基調の忍者装束に似ていますが、袖や肩、すそに赤いフリルのような飾りがついています。

「何だか、かわいーー」と3人。

「そうじゃろう、そうじゃろう。だが、かわいいだけじゃないぞ。これを着ると力がみなぎるのじゃ。このフリフリ飾りが力の源じゃ。さあ、着てみなさい」

「おす」

 3人は木の陰でそれぞれの勝負服を身につけ、髪の毛も動きやすいように赤いリボンで束ねました。

「ユイちゃん、かっこいいじゃーーん」「モアちゃんこそ、いい感じ-」「スーさんこそ、いいねー」「ほんと、いいねー」「いいね!」「いいね!」……。ほめあっていた3人は、テンションが上がって、踊り始めました。

「おーい、そこまでっ」コバじいが一喝します。

「3人とも、よーく聞け」「おす」

「となり村の竜神池には、大きなイジメ竜が住んでおるのじゃが、最近悪さをして大変なことになっておる。昔は若い娘のいけにえを差し出せばおとなしくしておったが、最近は人里にまで来て村人を食い荒らしておるそうな。どうしてそうなったかはわからんが、このままでは村が滅びてしまいそうだと、助けを求めてきよった」

「へー、でも竜って強いんでしょ」とモア。

「まさか、私たちに退治しろっていうんじゃないんでしょうね」とスー。

「そう、そのまさかじゃ。お前たち3人でイジメ竜をやっつけてほしい」

「うっそー、私たちにそんなことができるのかしら」とユイ。

「できるぞ。お前たちには、勝てるだけの力がついとる。ただ、3人の力をうまく組み合わせて戦わなければならない。わかったな」とコバじい。

「はい」「おす」3人は拳を握って返事をしました。


 となり村では、子供たちも住んでいる集落のすぐ上まで、巨大なイジメ竜が迫っています。

 グオーーー、グワオーーーーーー!

 集落の家が衝撃で震えます。

「父ちゃん、どうしよう。私たちもあの竜に食べられちゃうの」

「いや。お前たちはわしが守る。お前たちが食べられる前に、わしがあの竜に突っ込む」

「父ちゃん!」

イジメ竜に狙われた村の親子は、家の中でなすすべもなく震えています。

「もうだめか。だれか、助けてくれーー」父が叫びます。

「スーさん、ユイちゃん、感じるわ。父と娘が助けを求めてる」

 モアが、テレパシーで何か感じたように言います。

「よし、行かなくちゃ、助けに」とスー。

「でもどうやって?ユイは強い足だから、跳べば現場へ行けるけど、私とスーさんはとべないわ」とモア。

「んーーひらめいた!いい方法があるわ。時間がないから、実行しながら説明するわ。ねえ、モアちゃん、スーさんを現場まで投げ飛ばして。その強い腕で」

「えっ、あっ、はい。スーさんを投げ飛ばせばいいのね。わかった」

モアはスーの両腕をぎゅっとつかむと、グルングルンと振り回し始めました。

「えいやっ」モアは遠心力が高まった時点で、思いっきりスーを投げ飛ばしました。「あーれー」と、スーは尾を引くように空高く飛んでいきます。降りていくスーの視界に、ほえているイジメ竜が見えてきました。

 グワオーー、グワオーーー!

民家の屋根の上にいるイジメ竜は、バリバリッと大きい口で屋根をはがします。竜の目と、家の中でおびえてしゃがんでいる娘2人の目が合いました。

 きゃあーーーーーーーー!

 グワオーーーーーーーーーーーー!

 竜は大きい口をさらに大きく開け、2人の娘に襲いかかります。

 ズッゴーーーーーーン!!

 轟音がとどろいた瞬間、イジメ竜が民家の上から吹っ飛びました。

「ふう~~。ぎりぎり間に合ったみたい。あぶなかった」

 着地したスーが、左手を振りながら言いました。投げ飛ばされた勢いで、着地する直前に左拳を竜の頭にくらわせたのです。スーの正拳突きは、竜の頭蓋骨に食い込んだようです。

「こわかったでしょ。もう大丈夫よ。竜は動けないと思うわ」

 スーは、まだ幼い2人の娘にほほえみかけました。

 「さあ、早く逃げなさい」「はい」

 娘たちが立ち上がった瞬間、ゴンゴンゴンと地響きがしました。

 グワオーーーーーーーーン

 はね飛ばされた竜は、まだ生きていました。頭をかち割られたことで逆上し、全身を真っ赤にして上空に飛び上がりました。上空でとまり、ジッと娘たちの方を見ています。

「やばいっ、まだ超元気みたいー」スーがつぶやきます。

 ブワオーーーーーン!ギュルギュルギュルルルーーーーン!

 空中のイジメ竜が、急にぐるぐると回り始めました。

「えっ、何」

 バシューーーーンッ!

 スーが動きを止めて竜を見上げた瞬間、竜の尾がのびてスーをはね飛ばしました。スーは「うわあーー」と声を上げ、ポーンと近くの山の上まで飛ばされます。

「や、やばい」

 民家の方を見ると、逆上した竜が、大きな口を開けて、また娘たちを食べようとしています。

 グワオーーーーーン!バシュ!グオグオーーーン

 竜の動きが一瞬止まり、そのまま空中から落下しました。

 ドーーーン。

「ふー、よかった」「間に合ったみたいね」

 竜の近くの地面で、ユイとモアが寝転がったまま顔を見合わせます。

「あいたたた。竜のやつ、堅かったーー」

ユイが右足をさすりながら言いました。空から落ちてきたユイのキックが、竜の頭に直撃したようです。

「もー、ユイちゃん激しいだから。私を肩車したままあの強烈キックかますなんて」

「仕方ないでしょ。娘たちが危なかったんだから」

 足が強いユイは、モアを肩車したままジャンプしてこの村まで飛び、着地にあわせて竜にキックしたのです。

「でも、さすがねーユイのキック。この竜、ぴくりとも動いてないわ」

モアが、地面に横たわっている竜の顔に近づいていいました。

「まだまだ、油断できないわ。とどめをさしましょ」

 モアがそう言った瞬間、動かなかった竜の目がパチッと開きました。

「やばいっ」「逃げてっ」

ユイとモアが竜の顔近くから飛びのいた瞬間、竜は大きな体を起こしました。

 グワオーーーーン

 竜は尻尾を振り回して飛び上がり、ユイとモアめがけて襲いかかります。

「あぶないっ」バシュ!

 ユイが叫んだ瞬間、竜の動きが空中で止まりました。その尻尾の先を、モアの左手がぎゅっと握りしめています。

「さあ飛ばすぞー-」とモアは竜の体をびゅんびゅん振り回し始めます。

「モア、こっちよ。こっちへ投げて-。私の真上に」

 山の上から、スーが叫んでいます。

「オッケー、いっくよー」

 モアは勢いをつけて、竜をモアがいる山の上の方へ投げました。

 山の上のスーは大きく息を吸い、上を向いて待ち構えます。

 上空の竜がスーの真上に来た瞬間、雷が落ちたような音と地響きが天地を貫きました。

「かかってこいやーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 スーが上を向いて発した大声が、一瞬のうちに竜の体を抜け殻のように変えました。

 竜はへなへなになって落ちてきます。

「ふーー、スーさんの大声はすごすぎるわー。耳ふさいでてもジンジンする」とユイ。

「やっぱ、あの声に勝てる生き物はいないね、きっと」とモア。

 さすがの竜も動く気配はなくなり、村娘たちは助かりました。

「ふう、ちょっときつかったかな」

 スーが山をおりて2人のもとに来ました。コバじいも、どこからかやってきました。

「うん、力を合わせてよくやった。ひとまず合格だ」

「なに、テストだったの、これ」とスー。

「これで3人が戦えることがわかった。我々の本当の敵はもうすぐ近くまで来ている。頼むぞ、スー、ユイ、モア」

「はい」「メギツネ様の名にかけて」「負けませんよ」

 3人は、見つめ合って拳で軽くハイタッチし、闘志をみなぎらせました。


 エピソード1・終わり

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