2-8 勇者パーティー面接 その4 魔剣士と狩人

 ひとまず二人の女性メンバーの加入と婚約をとりつけて安堵したせいなのか、疲れがどっと押しよせてきた。

 愛憎度の把握もおおかた済んだし、はっきり言って、男には興味がない。魔剣士と狩人には申し訳ないが、手短に切りあげさせてもらうことにしよう。

 

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魔剣士まけんし ユキムネ・ブレードウィゼル

仲間のひとり。魔剣士は「魔剣」という魔力を帯びたかたなの潜在力を引きだすことにより、物理攻撃と属性攻撃をあわせておこなう剣士である。

日本の侍のように速度を重視する戦闘スタイルのため、重装備はせず、防御力は中の下だが、個体に対する攻撃力は6人中最強を誇る。とくに魔剣を装備した状態で使用できる「秘技」は一撃必殺の威力をもち、初期装備である「鬼斬おにぎりマサムネ」はゴースト系特攻の効果がある。

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 魔剣士ユキムネは、一言でいうと、某怪盗三世の刀担当みたいなやつだ。

 いでたちは着流しではないが、黒の長髪にやや細い目、苦みばしった面差し。おまけに一人称が「拙者せっしゃ」ときている。

 勇者の旅に参加する目的は、7本の魔剣を集めるため。

 ユキムネが語ったところによれば、彼の曽祖父にマサムネ・ブレードウィゼルという高名な刀匠がいて、このマサムネが作刀にのめりこむあまり、禁忌とされた魔剣の鍛造に手を染めた。魔剣は魔物を封じた聖魔結晶を核として鍛えあげる刀で、特殊な力を宿すものの、強すぎる魔力が扱う者の精神に負荷を与えるとされる。

 マサムネの打った魔剣は全部で7本。文字どおり身命を賭して鍛えあげたため稀代の魔剣に仕上がったが、せいこんも刀に捧げたマサムネは正気を失い、そのまま魔力の暴走に吞みこまれて魔人へと成り果ててしまったらしい。

 「七刀しちとうの魔人」と呼ばれ、魔剣のとりことなったマサムネは、王都リンカーンで夜な夜な辻斬りをくりかえし、最後には彼の7人の高弟たちによって魔剣を奪われ滅ぼされた。

 マサムネの最高傑作である7本の魔剣はそれぞれ、炎帝えんていマサムネ、氷帝ひょうていマサムネ、雷帝らいていマサムネ、鬼斬おにぎりマサムネ、音忘おとわすれマサムネ、無明むみょうマサムネ、飛燕ひえんマサムネの銘をもち、7本ともに数奇な運命をたどって、やがて所在がわからなくなってしまったという。


「――拙者、ブレードウィゼル家の家名に塗られた泥をすすぐため、7本の魔剣をすべて集め、炉にくべて熔かす所存」


 正直なところ、こういう設定を語られると、ゲーム・漫画・アニメに親しんだ俺としては、7本すべてが集まったときにユキムネが魔に堕ちて「七刀しちとうの魔人マサムネ」が復活するのではないかと勘繰かんぐってしまう。

 もっとも、俺の30周にわたる探索をもってしても、炎帝マサムネ、氷帝マサムネ、飛燕マサムネ、それとユキムネの初期装備である鬼斬りマサムネの合計四振りしか発見できておらず、このユキムネの話自体が世界観を膨らませるためだけのよくあるネタ振りという気もしてくる。

 どちらにしても、この周回でユキムネは無しだ。

 魔剣士は魔剣に宿る魔力を剣の斬撃にのせて攻撃できるため、弱点属性を突けば通常の3倍から5倍のダメージを与えることもできる。ボス戦では魔剣士がいるのといないのとで攻略時間が変わるほどの決定力を持つが、ゲームクリアではなくハーレムを目指す俺にとっては渋面の男がパーティーに加わることなど論外だ。

 それに、ユキムネに魔剣を渡すと、秘技が解放されるものの、魔剣を返してくれなくなるという欠点もある。だから、「鬼斬おにぎりマサムネ」は事実上ユキムネの固有ユニーク武器だし、いま俺がアイテムボックスに保管している「飛燕マサムネ」も別の周回で取得してから一度もユキムネに装備させていない。


「では、面接の結果は明日、みんなの前で発表させてもらいます」


 表面上は丁重にもてなし、早々に退出してもらった。


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狩人かりうど ギムレット・オーバーオール

仲間のひとり。狩人は弓での遠距離攻撃を得意とし、使用する矢の種類によって、毒、麻痺、眠りといった状態異常を付加することができる。

ギムレットはエルフで、信仰上?金属を身につけることができず、防御力は魔導士の次に低い。だが、基本は後衛のため防御力の低さはあまり問題とならず、状態異常攻撃は中ボスクラスでも効く魔物が多く、低レベルでの攻略も可能となる。また、戦闘以外でも狩人がいれば広範囲の魔物探索、魔物回避ができるため、冒険の効率化に役立つ。

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 さて、次は狩人ギムレットである。

 こちらは一言でいうと、元気印の男のである。

 ふわふわとした金髪、澄んだ青空のような碧眼、中性的な優しい顔だちは美少女そのものだが、過去の周回では俺のとなりでいっしょに立ち小便をしてしまう野卑な少年らしさもかねそなえている。

 勇者の旅に参加する目的は、エルフの王国「天摘たかつみの国」に勇者を導くため。


「――森人エルフは大昔の因縁から、ずっと竜人ドラグーンと折りあいが悪くてね。リンカーン王国とも国交がないの」


 声変わり前の甲高い音色で、明るく自国の窮状を語るギムレット。

 悲壮感はまるで感じられないものの、天摘たかつみの国が置かれた状況は過酷であった。

 まず、魔王復活の影響から魔物が大量発生するようになったこと。エルフの戦士たちが東奔西走して、モグラたたきのように討伐しているものの、死傷者が日に日に増えている。

 次に、大森林の地下深くに封印されていた「終末の大蛇」ヨルムンガンドが目を覚まし、あちこちで地割れが発生していること。地表にあらわれることはまれだが、ヨルムンガンドが地を這うたびに地震がおこり、川の流れが変わり、泉が干あがる。このままいけば、早晩、大森林の多くの樹々が立ち枯れてしまうだろう。

 最後は、北方に位置する鍛冶谷かじだにという山間部に、モンキー系の魔物たちが大挙して押しよせ、とりでを築いてしまったこと。頭領のゴールデンモンキーに率いられた猿賊さるぞくは、崖地という地の利も活かしてエルフの親衛隊による強襲をはねのけると、防備の隙間をついて、小さな集落を荒らしまわっているという。


「みんなプライドばっかり高くてさ、頭をさげて『助けてください!』ができないんだよ。ほんと、困っちゃうよね。

 だから、せめて僕だけでもあちこちまわって、ひとりでも多くの人に『天摘たかつみの国に駆けつけてください』てお願いしているの。

 でも、リンカーン王国も大変な状況だし、天摘たかつみの国までの道は魔物がいっぱいで危ないし、困っていたら、きれいなお姉さんが、あ、大臣のルルイエ・スニークスネークお姉さんね、勇者さまなら助けてくれるかもしれないよ、て」


 ギムレットは息をつくと、両手をぎゅっと握りあわせて大きく身を乗りだした。


「ね、お願いします。僕たちの国を助けて。

 僕にできることなら、なんでもお礼をするから」


 こんなキラキラとした瞳で懇願されると、男だとわかっていても、ついドキドキしてしまう。

 だが、俺はハーレムを築くと誓ったのだ。見た目がいかに可憐かれんであろうとも、ついてるものがついている相手を自分のベッドに招きいれることはできない。この可愛らしさで他の嫁たちが篭絡ろうらくされ、俺のハーレムが乗っ取られるような事態になったら間違いなくバッドエンディング扱いだろう。

 とにかく、ギムレットも無しだ。


「君の国の過酷な状況はよくわかった。

 俺は勇者として、困っている人々を決して見捨てない。必ず天摘たかつみの国へ立ち寄り、君の同胞、エルフたちを救うと約束する。

 これは誰をパーティーメンバーに選んでも実行するから、安心してほしい」

「えへへ、勇者さま。やっぱり、いい人なんだね。

 大好き!」


 満面の笑顔をみせて、俺の頬にチュッと口づけをする。

 その柔らかな感触におもわず胸がキュッと締めつけられるが、ここで道を踏み間違えてはいけない。ピロリン♪と鳴るのを聞きつつ、大人の余裕で鷹揚おうようにうなずきだけを返した。

 ギムレットに約束するまでもなく、エルフの王国、天摘たかつみの国はメインルートに組みこまれている。魔王討伐を目指すならば、いやおうなく踏破しなければならない場所だ。

 モンキーひしめく猿賊さるぞくとりでを攻略し、巨大なヨルムンガンドを撃退する。それで天摘たかつみの国は救われるわけだが、ヨルムンガンドを逃がさず、討伐までもっていけば、エルフの女王「星よりもいと高き輝きのきみ」から天摘たかつみの国の至宝「妖精王の鎧」が下賜される。いま俺が装備している土水火風属性ダメージ半減、毒、麻痺、睡眠、魅了、石化無効のS級防具だ。

 すでに鎧を手に入れているため、この31周目で無理をする必要はないが、一定ダメージを与えるとすぐに遁走してしまうヨルムンガンドを逃がさず延々とダメージを与えつづけるためにはギムレットの状態異常攻撃が効いてくる。

 天真てんしん爛漫らんまんな笑顔で、毒、眠り、麻痺の劇薬が塗られた矢をネチネチと撃ちつづける姿はギャップ萌え必至。細い腕で弓を引きしぼり、矢をときはなつ瞬間に浮かべる恍惚の表情は、脳裏に刻まれるなまめかしさだ。


「面接の結果は明日、みんなの前で告げさせてもらう」


 男のを身悶えさせる幻想を振りはらい、俺はにこやかにギムレット・オーバーオールと別れたのであった。

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