1-2 魔神城城内
魔神城は地上4階地下1階の5層構造となっている。
俺がいましがた侵入を果たした城門は、地上1階。
1階は石造りの迷路となっていて、見た目は3D表示された古式ゆかしい王道RPGという趣きだ。がっちりとした石組の床、同じ材質の壁、そして天井。幅と高さがほぼ均一で、一辺が4メートルほどの正方形となっている。
青白いかがり火が点々と照らしだす薄暗い通路をどこまで進んでも、目印となるオブジェクトはなく、マッピングが必須。しかも、ところどころに落とし穴のトラップまで用意されている。
落とし穴の先は、もちろん地下1階。こちらは地上部分の人工的な造形とは異なり、
青白い光の魔物「ウィル・オー・ウィスプ」が徘徊し、くぼんだ場所には異臭をはなつ毒の沼がわいている。
この地下から地上にもどる階段は1ヶ所しかなく、まわりは緑色の毒が泡だっていて、浮遊の魔法がなければダメージ覚悟で腰まで浸かって進まなくてはならない。
「俺がWIZゲーマーじゃなければ、ここで心が折れていたかもしれないな」
いまではどこに落とし穴があるかすべて把握しているが、正解のルートを見つけるまでのトライ・アンド・エラーは実に単調で、肉体と精神双方に苦痛をともなう作業であった。たとえシーフを仲間に加えていても、落とし穴は朽ちた床が自然崩落する仕組みのため他の床と判別することができず、すべて身体で覚えるしかない。しかも、2階へと続く唯一の階段はダミーで、落とし穴をすべてかわして進んでも2階で行き止まりになってしまうという意地の悪さ。
3階へ進むためには、1ヶ所だけ区切られた地下の部屋に落ちる正解の落とし穴を見つけだし、そこから登っていかなければならない。
俺は最短ルートで1階を踏破すると、迷わず正解の落とし穴に乗った。
ガクン、と振動とともに床がガラガラと砕け、足もとに真っ黒な穴が口を開ける。なにも対策がなければ落下ダメージを負うところだが、俺の履いている「天馬の靴」にはこれを無効化する特殊効果がついている。
床から50cmくらいのところで、靴から半透明の翼がひろがり、まだ土煙がただよう地面にふわりと着地した。
城門からここまで、「人喰いトロール」に5体遭遇したものの、攻撃をまともに受けることもなく、いずれも2撃で沈めてきた。通路の幅が広くないため、巨体の魔物とは1対1の勝負となるから楽勝だ。
地下の小部屋を素通りして、用意された階段から1階に戻り、また次の小部屋を2階へと駆けのぼる。
2階は1階と同じ石造りの迷路で大きな違いはない。
ところどころに配置された宝箱を開けようとすると、「ミミック」がまぎれこんでいて不意打ちしてくるのが
ミミック以外にも、銀色の小型の龍「シルバードラゴン」が出てくるが、迷宮の中では飛ぶこともできず、氷のブレスさえ注意しておけばD級の魔物よりも対処しやすい。
シルバードラゴンは、なぜ屋内に配置されているのか謎な魔物だ。
3階は文字どおり一寸先も見えない
しかも、このフロアに現れる「シャドウ」という魔物はもともとが影のような姿をしているため、攻撃を受けるまで近くにいることに気がつかない。
他にも「
「――イタッ! というほどのダメージでもないか」
ナイフのような爪で背後から襲ってきたシャドウを振りむきざまの一撃で葬る。すぐさま前に向きなおり、頭のなかの地図をくずすことのないように慎重に歩数をかぞえながら、目印となる
途中、凍えるたましい2体とナイト・オブ・スケルトンナイトのグループに出くわして魔法と剣の波状攻撃に少々手を焼いたものの、苦戦というほどのこともなくガラスのような素材で青く光る階段へとたどりついた。
最上階の4階は、謁見の間へとつづく通路のみのエリアだ。
いままでの石造りの武骨なフロアとは趣きが異なり、白大理石の壁が左右にそそりたち、床には鮮血色の絨毯が真っ直ぐにのびて、あたかも宮殿のよう。天井からはガラスの
通路の両側には台座に両手両足をつけたガーゴイルの像が並んでおり、通りすぎると、このうちの数体が背後から襲いかかるトラップとなっている。
だが、何十回とこの不意打ちを経験してきた俺は、もはや、ガーゴイルが台座から伸びあがる空気の揺らぎを感じるだけで、背後を振りかえることもなく剣で串刺しにすることができる。
通路の先には濡れたような質感の赤い扉。
左右の
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『
地獄の王がもつという善悪を見抜く人頭杖を模した魔道具。
訪れる者に
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「ここから先は魔王の居室。
招かれざるものが踏みいれば、命はないぞ」
左の年老いた男の顔がつぶやくと、
「扉を開ければ、もどることはできない。
よく考えて進みなさい」
右の悲しげな表情の年若い女の顔がつけくわえる。
魔王の間の衛士の言葉を受けて、俺は毎度苦笑してしまう。
なんという親切設計だろう、と。
ラスボス戦にはいれば、そのままエンディングまで一直線。
やり残しがないように注意喚起をしてくれているのだ。
「いつもありがとうな」
俺が二人に会釈すると、魔王の間の扉が内側にむかってゆっくりと開かれた。
【巻末資料:魔神城の魔物たち】
『 ウィル・オー・ウィスプ 』
溺死した者の魂が自らの肉体を探しもとめているのだ、といわれている。
生き物がその発光する球体に触れると、ウィル・オー・ウィスプは暖かな肉体に潜りこもうと、電撃で皮膚に穴をあけようとする。水辺で焼け焦げた死体を見つけたら、それはウィル・オー・ウィスプの仕業かもしれない。
【等 級】 D級(中級魔)
【タイプ】 ゴースト
『 人喰いトロール 』
深い森の奥に棲み、穏やかな気性をもつトロール。しかし、人喰いの名を負わされた一派は、森にわけいってきた人間の死肉をむさぼったことでその味をおぼえ、人間の残虐性をも引き継いだ哀れなものたちである。
3メートルに達する巨体から繰りだされる棍棒の一撃は、鋼鉄の鎧すら簡単に押しつぶす破壊力をもつ。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 妖精
『 ミミック 』
外装は宝箱をそのまま使用しているため見た目で
ミミックの中は空洞で、そのまま宝箱として使用することもできるため、まれにミミックの残骸から高価なアイテムが発見されることもある。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 ゴーレム
『 シルバードラゴン 』
ドラゴンは鉱物に宿る魔力を好んで食べるといわれている。シルバードラゴンは銀を主食とし、体内に蓄えられた銀塊は胃の溶解液によって精錬され、高い硬度をもちながら自己修復力を有するミスリル銀となる。
一時はミスリル銀をねらった乱獲により個体数が激減したが、ドワーフたちが鉱山内に保護区をつくったことで近年は増加傾向にある。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 ドラゴン
『 シャドウ 』
あまりに長い時間この世に留まりつづけたため、おのれを繋ぎとめていた執着が何だったのかすら忘れ、影のような姿に成りはてたゴースト。闇とほとんど同化した存在である彼らは光の中では存在できず、世界を闇でみたすために殺戮を繰りかえしている。
高度な闇魔法の使い手で、暗闇の中で攻撃されると非常に厄介な相手である。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 ゴースト
『
誰からも
この行き場のない魂にとって、消滅することが唯一の救済かもしれず、倒された
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 ゴースト
『 ナイト・オブ・スケルトンナイト 』
魔王と聖王との決戦がおこなわれたとき、王国から選りすぐりの騎士たちが魔神城に決死隊として突入した。彼らは魔物との激闘の末、
王国の最良の騎士たちは、皮肉にもスケルトン種の最上位として、魔王をまもる親衛隊となったのである。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 スケルトン
『 ガーゴイル 』
一見すると石のような質感をしているが、実際は伸縮性に優れており、獣のような俊敏な動作をする。
【等 級】 C級(上級魔)
【タイプ】 ゴーレム
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