涼宮ハルヒになりたかった女の子の話(短編)

蒼舵

 例えばまあ中二病だなんて言葉があって、定義やら変遷やらは省略するけれどとにかく、自分はなにか特別な存在だと思ったりだとか、世界の命運は自分が担っているだとか、或いは既存作品の設定を切り貼りしたような〝オリジナルキャラクター〟を、これまた既存作品の設定の切り貼りで構築したような世界で戦わせたりだとか、思い返したら赤面ものの痛々しく恥ずかしい行動を取ったりすることは、往々にして不思議なことなんかじゃあない。俺だって二、三そんな類の経験はあるし、それはおそらく誰しもが通ってくる道であって、黒歴史だなんだとネタにできるくらいならきっと幸せなものなんだ。ある種の共通体験、「小学校の頃ポケモンはまったよねー」と同じくらいポピュラーな話題なのである。なんて、高校一年生になった自分はもう既にそんな過去を俯瞰したりもしてしまうね。

 この教室においてもおおよそ四、五人程度には確実にそのような過去があるのは確定的に明らかで、ほら見ろあの窓際の席にいる眼鏡のデブなんて……おおっとそんな言い方をするのはよくないな。人を見た目で判断するのはよろしくないことだ。

 さて、そんな風にちょっとだけ成長した俺は学力レベルに合わせて何となく進学した地元進学校にて初めてのホームルーム。県立北高。何の変哲もないフツーの公立高校。制服はブレザーで、ネクタイの色は赤。中学時代の学ランはそんなに好きではなかったので、この変化は些細ながらかなり喜ばしいものである。周りを見回しても皆どことなくぎこちない着こなし。いよいよ高校生活スタートという感じだ。

 そう、ここから始まるは三年間の高校生活。一体どんな生活が待っているのだろう!

 ……とは言ったものの、特別入りたい部活や目標にしたい事柄もなく、これまでの十五年のようになんとなく時間は過ぎ去っていってしまうものなのかもしれないな。


 担任の先生の自己紹介が終わった。教師生活五年目くらいの女教師だ。それなりに美人なのでやったぜと思う。先生はひとりずつ軽く自己紹介をしていこうと提案し、窓際の出席番号一番から順に、手短な自己紹介が行われる。俺は無難に済ませ、席に着く。後ろのクラスメイトが入れ替わりで立ち上がる。後ろを向いて聞くのもなんだか気持ち悪いので机に目線を落としながらそれとなく耳を傾ける。


「東中出身、田中真由子。平凡な人間には興味ありません。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に興味がある人がいたら、私のところに来て、以上」



 ――耳を疑った。嘘だろと驚愕した。まさかだと唖然とした。そうして思わず振り返った。


 田中真由子は、涼宮ハルヒになりたい女の子だった。

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