第5話森の世界とサラリーマン④
「起ーきーろぉー!!!」
バチチチチチチ!!!
「うおおおお!!」
朝から、スパーク音と金髪ロリっ子の叫び声が響いた。
なんなんだ全く、ニュースのお姉さんとイチャラブデートの真っ最中だったというのに。
「さっさと起きろこのオスブタ!今日からじいちゃんの仕事の手伝いに行くんだろ!」
リリアはそう言うと、布きれのようなものを投げた。
どうやら服のようだ。
「その服じゃ動きづらいだろうからって、じいちゃんが用意してくれたんだ、感謝しな!」
確かに、ジャケットとスラックスでは動きずらい。
それに、いつまでも同じ服を着続けることにも抵抗がある、服をもらえたことは、とてもありがたかった。
「あ、ありがとう。」
「わかったらさっさと着替えな、遅れたら朝ごはん抜きだよ!」
「なに!?」
朝食抜きはきつい、急いで着替えなければ。
俺は朝、昼、晩ときっちり三食食べないと一日のモチベーションが保てない性分なのだ。
そして俺は思いっきりスラックスを下した。
勢いよく下してしまったがために、下着も一緒に下してしまった。
あばばばば……うむ、今日もマイサンは元気だ。
「……!!」
おや、リリアが耳まで真っ赤にしながらうつむいているぞ?
はっはっは、何をそんなに恥ずかしがっているんだい、僕らはみんな生まれたときは裸じゃないか。
ヌードイズビューティフォー。
「き……きゃああああー!!!」
リリアの髪が今までで一番強い光を放った。
それはつまり、今までで一番強い電撃ということになるのは明白だった。
ああ、俺の人生は、ここで終わったのか、と思ったが。
電撃は、まっすぐ上へと飛んでいき屋根を跡形も無く吹き飛ばした。
あれが、自分に向かっていたらと思うと……ぞっとするどころではない。
「は~、は~。」
リリアは、相当興奮しているのか、息を荒げていた。
「ファック!そんな粗末なもん見せるんじゃないよボンクラ!!」
「そ、粗末だんてひどいじゃないかぁ。」
「シット!さっさと着替えな!」
そういうと、部屋から出ていこうとした。
しかし、扉を開けたときに、リリアの動きが止まった。
「次にその粗末なものを見せたら、切り取って口にぶち込むからね。」
恐!思わず俺のマイサンも、朝だっていうのに縮み上がっちまったぜ。
「ら、らじゃー。」
俺が返事をすると、バンッと勢いよく扉が閉められた。
今日は、快晴。
吹き抜けになった屋根を見上げて、少しだけ溜息をついた。
今日からが、俺の異世界生活の始まりだ!
◇ ◇ ◇
朝からひと悶着あったが、何とか朝食に間に合った。
村長家の食卓には、パンとスープ、それとサラダが三人前置かれていた。
「おはよう、リオ殿。その服似合っているではないですか。」
「ありがとうございます。宿の上に、服まで貸していただいて。」
「いいんですよ。それにその服はもうあなたのものです。好きに使ってもらって構いませんよ。
なんていい人なんだ村長さん!
顔は恐いけど。
朝から死にかけたこともあり、とてもお腹が空いていた。
パンの香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「それでは、食べるとしようかの。」
「頂きます!」
そういえば、今までいろんなことがありすぎて疑問にも思わなかったが、リリアは、どうやって電気を出しているんだ?
冷静に考えたら、いくらエルフとはいえ、人体から電気が発生するなんてものすごく不思議な光景をみていたが。
冷静になっていたつもりだったが、いままで全く気にも留めていなかった。
「そういえば、リリアはどうして電撃をだせるんですか?」
「我々、ポックルのエルフは、ある程度成長すると電気を発生させることができるのです。発生させられる量は個人差がありますが。」
やっぱりエルフなのだなぁと、改めて思った。
だが、俺の知っているエルフは、寿命が長くて、弓や魔法が得意な種族だったはずだ。
体から電気を発生させるなんて聞いたことがない。
それとも、あの電撃が魔法なのか?
そのことを村長に尋ねるとどうも魔法とは違うらしい、なんだかこう、出ろ~って思うと出てくるそうだ。
また、俺の知っているエルフとの相違については、「ポックルのエルフは、そうゆうものなんです。」と言われた。
ついでに村長もエルフ?と尋ねたら、それ以外何に見えますか。と言われた。
ついでに睨まれた、恐ぇ。
村長は、ドワーフとかそっち系の気がしてならないのだが。
「実際、リオ殿のような亜人と比べると、寿命は長いやもしれません。私が今、およそ650歳、そしてリリアが110歳ですので。」
「110歳!?」
リリアが110歳!?
いや、見た目はこの際仕方がない、エルフなのだから。
しかし、110歳にしては言動が幼稚すぎる気がするのだが。
ちらりと、スープを飲んでいるリリアに視線を向ける。
それに気づいたのか、スープを飲み込むと腕を組んでにやりと笑った。
「ふふん、私の方が年上なんだぞ、敬うがいい。」
「とても110歳には見えないがな。」
「なんだと!」
「これこれやめんか、リリア。」
「……チッ。」
金髪ロリっ子の110歳児は、村長にたしなめられ、食事を再開した。
なるほど、村長がいれば、リリアは大人しくなるんだな。
これはいいことに気が付いたぜ、ひっひっひ。
「そういえば村長さん。」
「なんですかな?」
「今日から仕事の手伝いをしてもらうって言ってましたけど、具体的に何をすればいいんですか?」
「おお、そういえば昨日伝え忘れておったの。」
そういうと、村長はスープの肉を一切れ、フォークで突き刺しにっこりと笑った。
「狩りをしてもらいますぞ。」
「へ?」
◇ ◇ ◇
「ぬううおおお!早く剣を突き刺さんかー!!!」
「無理無理無理無理!!」
森の中、巨大なカバに明らかに殺傷力の高そうな牙を装備させたモンスターと対峙していた。
そして、現在、モンスターに筋骨隆々な村長がヘッドロックを仕掛けながら早く刺せ、と叫んでいる。
しかし、このモンスター暴れ方が尋常じゃない。
こんな暴れまくっている状態で近づけるかっつーの!!
モス・ドラゴン。
全長3mはあろうかという巨大なカバのようなモンスターだ。
ドラゴンと呼ばれているが、実際は肉食でもなければ、火を吹くこともない、村長曰く、動きが鈍く、狩りやすいターゲットとのことだ。
村長の家から北へ2時間ほど歩いた水辺に、このモス・ドラゴンというモンスターがいた。
ターゲットを確認したと同時に村長が突然の猛ダッシュをした。
ターゲットまでのおよそ30mを3秒弱くらいで詰めたと思ったら、まさかの大ジャンプ。
モス・ドラゴンの首にその鋼のような腕を食いこませ、今に至るといった具合だ。
ちなみに二時間もぶっ通しで歩いたために、ターゲットを見つけた時点で俺の体力に限界が来ていたことは、言うまでもあるまい。
「リオ殿早くしてくだされ!!わしもー限界!」
「いやいやいや!無理だってこれ!踏みつぶされて死ぬよこれ!!?」
なかなか剣を突き刺せないでいると、モス・ドラゴンの体が一際大きく揺さぶられた。
「ぬううううん!?」
流石の村長も耐え切れず、空中に放り出され地面に叩きつけられた。
「ちょ、村長!大丈夫ですか!?」
俺は駆け寄ろうと思ったが、足が震えて動かない!
畜生、なんだって俺がこんな目に!
「心配無用ですぞ!こうなれば、正々堂々と、正面から戦うのみ!!」
そう言うと村長の短い金髪が光りだした。
同時に、彼の右手からぱちちちっと、スパークするような音が聞こえる。
体制を立て直したモス・ドラゴンが、こちらに駆け出してきた。
その見るからに大質量な体からは、想像できないほどの勢いで村長へ突進していく。
「危ない!!」
思わず叫んでしまった。
しかし、俺の叫びも虚しく、モス・ドラゴンと村長の距離はあと2mもない。
ぶつかる、と思ったとき、すさまじい発光とバンッ、と一際大きなスパーク音がした。
強烈な光に視力を奪われたが、10秒ほどで戻ってきた。
なんと、村長の目の前には、しゅうしゅうと音を出して丸焦げになったモス・ドラゴンが横たわっていた。
「ふぅぅぅ。」
村長がゆっくりと息を吐くと、発光していた髪が、元のくすんだ金髪へと戻っていった。
「すげぇ...。」
俺は素直にそう思った。
そして同時に、二度と狩りには来ないとも、思った。
「すごいですね村長!こんな技があるなら初めから使えばよかったのに!」
俺は、そういって村長の顔を見たがあまりうれしくなさそうだ。
何故だろう?
「これではいかんのですよ、確かに仕留めやすくはありますが、私の電撃では威力が強すぎて肉が炭になってしまうのです。」
なるほど、だからなるべく素手や剣で仕留めようとしていたのか。
「すいません、俺、動けなくて。」
「いいんですよ、誰でも向き不向きはあります。」
不甲斐ないな、俺。
でも、狩りには絶対もう来ない。
「さあ、ほんの少しですが、炭にならずにすんだ部分もありますし、昼食にしましょう。」
そういって村長は、短刀でモス・ドラゴンの腹を裂いた。
今日の昼食は、パンとモス・ドラゴンの肉という、とても野性味あふれるものだった。
「村長の電撃の威力すさまじかったですね。」
「なに、わしなどまだまだですよ、才能でいったらリリアの方がよっぽどあります。」
「そうなんですか?」
「そうですとも、あの年であれほどの電気が出せるものはそうはおりません。わしでさえ、あのレベルに達したのは、300歳を過ぎてからです。」
リリアって、そんなにすごいやつだったのか。
まさか、その才能のせいで自信過剰になってるんじゃないのか?
全く、持ってるやつは羨ましいぜ!
「あの子の母親も素晴らしい才能を持っておりましたからな、やはり親子というものは似るものなんですなぁ。」
母親。
そういえば、リリアの両親はどこにいるんだ?
昨日も、今日の朝も、見かけなかったけど。
「あの。」
「どうしましたかな?」
「もしかしたら、気に障る質問になるかもしれないのですが……。」
「リリアの、両親のことですな?」
「……はい。」
読まれたか、そりゃこの会話の流れだったらな。
「あの子の母親は、あの子が50の頃に亡くなりました。もともと体が丈夫ではなく、リリアを産めたのも奇跡に近かった。」
「それからあの子は、ふさぎ込んでしまったのです。10年程でしょうか、ずっと、自分の部屋に引きこもっていたのです。」
「それまでは、母親に似た、おしとやかな子だったんですが。」
10年間引きこもりってすげーな!!
「引きこもっていた間に、性格が変わったんですか?」
「いいえ、それは違います。」
ん?引きこもっていたことが原因じゃないならいったいなんで性格が激変したんだ?
「リリアが引きこもって、10年目のある日、わしは、リリアを元気づけようと、引きこもり10周年パーチーを開く準備をしていました。」
一体何しようとしてたんだ、この人。
「準備のために、まき割をしていた時にです、リオ殿と同じ、亜人がやってきたのです。」
「え!?」
「その方は、女性でした、そして私に、何をしているのかと尋ね、私は、塞ぎ込んでいる孫娘を元気づける為のパーチーを準備しているのです、と答えました。そしたら……。」
どうでもいいが、パーチーってなんかイラッとするな。
『引きこもりだって?FUCK!せっかくの新たな人生の始まりに、いきなり辛気臭い話じゃないか。』
『あたしに任せな、あんたの孫娘をお日様の元に引きずりだしてやるよ。』
『親が死んで悲しんでるだって?何甘ったれた事言ってんだい、女が輝ける時期は短いのさ、引きこもっている暇なんてないよ。』
『Damn it!外出るだけでそんなに暴れなくてもいいだろうに!おまけにビリビリときたもんだ!だけど、どうだい久々のお日様は!最高だろう!』
『悲しいことがあったって挫けちゃいけないよ、そんな時こそ自分を奮い立たせるのさ、そして強くなって最高の女になりな!』
「その後、リリアはその方の弟子になりました。」
……ん?
「弟子...ですか?」
「弟子です。」
なるほど、そんな破天荒な人の弟子になったらそりゃーああなるわ。
九分九厘その人が悪い。
しかし、村長の話を聞いて一つ疑問に思うことがある。
「リリアの父親は、その時どうしていたんですか?」
そう、村長の話の中に、父親が全く登場しなかったのだ。
「あの子の父親、わしの息子は、あの子が30の時に書置きも残さず突然姿を消したのです。」
「そんな。」
「今や、あの子の身内はわし一人となってしまいました。」
「その師匠さんはどこへ?」
「彼女は、二年程してから『あたしの役目は終わった、後は好きにさせてもらうよ。』と言って、他の世界へ旅立ちました。」
役目が終わったって、リリアが完全に立ち直ったってことだろうか?
それにしても、あの生意気な金髪ロリっ子にそんな過去があったなんて。
どう受け止めればいいのかわからないぞ。
次にリリアに会ったとき、変な顔になりそうだ!
「リオ殿に、一つ頼みごとがあります。」
「頼み、とは?」
「あの子を、リリアに、他の世界を見せてやってはくれませんか!」
「え。」
それってつまり、俺の理想郷探しに連れて行けってこと?
まだ、旅立つかも決めていないのに?
「どうかお願いします。あの子は、自分の父親は、他の世界で生きていると信じているのです!わしは仮にも村長、村を置いてはいけません。それに、亜人の方でなければ、他の世界へと旅立つことはできないのです!」
村長が俺に良くしてくれていたのは、この頼みを聞いてもらうためだったのかもしれないな。
俺は、答えた。
「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
村長の目が点になっている。
相当驚いているのだろう、かなり良い話だったからな。
事実、今の話で俺の涙腺は決壊寸前だ。
しかぁーし!それとこれとは話が別だ!
当然だ、朝会うだけで殺されかけているんだぞ?
あの金髪ロリっ子と一緒に旅などしてみろ、命がいくつあってもたりないっつーの!!
「そ、そこをなんとか……。」
「村長、今あなたは、あなたの意見でしか話ていません。一度、リリアも交えてお話しするべきだとおもいます。」
「……わかりました。」
くくく、あのリリアが素直に一緒に行きたいなどというはずがない。
「今日は、もう家に戻りましょう。なれない狩りをしたのでへとへとでしょうし。」
事実、俺は疲れ切っていたのでお言葉に甘えさせてもらった。
それにしても、かなり衝撃的な話を聞かされたな。
これから、どうやってリリアに接したらいいんだ、俺。
森の木々の合間から夕焼けが見えてきた。
世界が変わっても、夕日は変わんないんだなー、とか考えながら片道二時間の道のりを再び歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます