第3話森の世界とサラリーマン②

 全身が痺れながらも、ようやく村長の家にたどり着いた。

 先ほどまでいた小屋を少し豪華にしたような家だ。

 といっても、すべて木製なので、素朴な雰囲気は変わらない。


 普通に歩けば、10分もかからない距離だったが膝が笑っているせいで、倍以上はかかった気がする。

 しかも、目の前にいるこの金髪ロリっ子は、道中全く口をきいてくれなかったので、なんだか余計に疲れた。

 全く、親の躾はどうなっているんだ!もし、機会があればガツンと言ってやらねば!


「じいちゃーん。連れてきたよ。」


 金髪ロリっ子が扉を開けると、部屋の奥に筋骨隆々のたくましい老人が座っていた。

 顔は確かに老人だが、その肉体は、若々しく、入口から老人まで3mはありそうだが、ここまでその迫力が伝わってくる。

 第一印象は、恐っ!である。

 しかも、じいちゃんだって?身内ってことか?これ、ガツンと言ったらグシャってやり返されそうなんだが。

 改めて、老人と老人の周りを観察してみると、老人の背後に『村長。』と書かれた額縁が目に入った。

 明らかに筆で書かれているが、なんだろう、部屋の素朴な感じと全く合っていない。


「おお、やっときたか。ずいぶん遅かったのう。」

「このボンクラがちんたら歩いたからだよ。」

「これこれ、まーたお前はそんな口のきき方をしおって。普通に話さんか。」


 隆々な老人は、顎に蓄えたひげを撫でながら、金髪ロリっ子を窘めたたしな。

 あれ、この人は、もしかしてまともなのか?

 てっきりここの人達みんなこの子みたいな話し方だと思ったよ。

 主に村長(?)の顔をみたせいで。

 村長(?)に言われても、この金髪ロリっ子は、そっぽを向いてしまった。


「さあ、こちらに来て座りなさい、お客人よ。いろいろ聞きたいこともあるでしょう。」

「あ、はい。それではお言葉に甘えて。」

「これ、お茶を持ってきなさい。」

「はーい。」


 気の抜けた返事をすると、金髪ロリっ子は部屋の奥、おそらくキッチンへ歩いて向かったのだろう。

 村長の言うことには、割と素直に従うんだな。

 俺は、言われるがままに村長(?)の対面に座った。

 近くで見るとより一層迫力があるな。

 びびるな!俺!仕事でやらかした時の、面談よりよっぽどましじゃないか!

 あの時は、辛かったなぁ。

 会社の重鎮達数人に、あの時お前はどうしてただの、なぜこうしなかっただのと言われまくったっけ。


「ところでお客人!」

「は……はいぃ!?」


 思い出に浸っていたところに急に大声をだされたせいで変な声出ちゃったよ!

 冷静になれ、俺。

 これから話し合いだっていうのに思い出に浸ってる場合じゃないだろ。


「わしの孫娘が無礼をしてしまったようで、申し訳ない。」


 そういうと、村長(?)は深々と頭を下げた。


「い、いえいえ。そんな無礼だなんて!」

「いえ、あなたの様子を見ればわかります。あの子に電気ショックを浴びせられたのでしょう。」


 ええ、それはもう、死にそうなくらい浴びせられましたとも。


「あの子は、リリアは、もともと繊細な子でして。すぐに電気をはなってしまうのです。近頃は落ち着いてきたと思ったのですが。」


 あの子リリアっていうのか。

 そういえば名前知らなかったな。

 というか、すっごいナチュラルに電気を放つとか言われちゃったよ。

 一体何者なんだこの人たちは?


「お気になさらずに。私にも、至らないところがありましたし。」

「おお、寛大なお方だ。ところであなたのお名前はなんとおっしゃるのですか?」

「山田リオ、と申します。リオと呼んでください。」

「リオ殿ですか。良い名前だ。私は、この村の村長をやっております。レオナルド=グリーンと申します。」


 てことは、あの子はリリア=グリーンか。

 そしてやはり、この人が村長なのか。

 これだけ主張していれば、誰でもわかるか、とちらりと村長の背後の額縁を見た。


「あの、何点かお聞きしたことがあるのですが。」

「私の知っていることならば、なんでもお答えしましょう。」


 妙に協力的だな、この人。

 まあ、いいか。 

 今は、考えたって仕方がない。

 考えるな、感じちゃいなよ、ビクンビクンッてことだ。


「まず、村長さん達は、いったい何者なんですか?電気を放ったり、その長い耳も、普通の人間とは違う、まるでエルフみたいだ。」

「その通り、わしらは、エルフなのですよ。」


 一体何を言っているんだこのマッチョな老人は。

 こんなマッチョなエルフなんて、現実にいるはずがない。

 いや、そうじゃないな、エルフそのものが、現実には存在しないはずだ。


「なんだか、驚かれているようですが、ここポックルには、むしろあなたのような人のほうが少ないですぞ。」

「一体、ここはどこなのでしょうか?」

「ここは、ナグラリアの世界の一つ、森の世界ポックルですよ。」


 またその言葉か。

 ナグラリア、世界の一つ、ポックル。

 一つずつ聞いていこう。


「ナグラリアとは、なんですか?」

「んん?こちらに来るとき、女神様から説明されなかったのですか?」

「え、女神?説明?」


 なんのことか、わからない。


「まあいいでしょう、ナグラリアとは数多の世界を内包する世界の事です。」

「数多の世界、とは?」

「ナグラリアの中には、ここポックルのような森の世界の他にも、海の世界や空の世界、はたまた愛の世界なんてものも存在します。」


 愛の世界……

 なんか卑猥だな、おい!!


「しかし、通常、世界間での移動はできないのです。我々は、その世界で生まれた以上、その世界で生涯を終えなければなりません。それは、きっとあなたも同じなのでは?」

「そうですね、普通、他の世界に行くだなんて事は、ありえません。」


 そのありえないことが、今まさに起きているわけだが。


「そうでしょう、ところが、ここ、ラグナリアには、世界間を移動する力を持った者たちがいるのです。それが……」

「女神、ですか。」

「その通りです。女神は、なぜかあなた方ニンゲン、私たちは、亜人と呼んでおりますが、このナグラリアに召喚するのです。」

「そうなんですか。」


 なぜ召喚されたのかは、わからない。

 けど、どうして俺が来たのかは心当たりがある。


『あなたの望みを叶えましょう。』


 あの夢の中の女性は、きっと女神だったのだろう。

 なんとなく、そう思った。


「本来ならそういったことは、説明されてから来るはずなのですが、あなたは、何も知らないままきてしまったようですね。」

「そんなことが、ありえるんですか?」

「ありえるわ!!」


 急に女性の声がした。

 あれ、この声どこかで聞いた覚えがあるぞ?

 今まさに、思い出していたばかりの声だ。 

 部屋の奥、さっきリリアが向かった部屋から一人の女性が出てきた。

 気だるそうなグリーンの瞳。

 緑色の髪。

 右手にリンゴ。

 左手にバナナ。

 やや猫背気味だが、隠しきれない豊満なバストが目に付くぜ!

 というか、すっごいなんか食べてる。

 一体何者なんだこの人?


「女神様!!」

「ええ!!?」


 これが、女神、だと?

 女神ってもっと神々しい感じじゃないのか、こう白い布っぽい服きててさ。

 普通にミニスカートなんですけど、これはこれでありだけど。


「めあみふぇーす。ひかえふぉろー。」

「食べながら話すんじゃない!!」


 思わずツッコんでしまった。

 うわぁ、村長めっちゃこっち見てるよ恐ぇ。

 ごくん、と気だるそうな女神様が飲み込むと、話しだした。


「初めまして、ではないわね。私は、ミザリー、あなたをナグラリアへ召喚した女神よ。」


 話しながら女神、ミザリーは、テーブルに腰かけた。

 なんだか、いろいろとだらしない女神のようだ。

 というか本当にあの時の女神なのか?

 なんというか、雰囲気が違いすぎやしないか?

 もっと、こう、人ならざる者って感じがしたんだが……

 なんとなく観察してみると、ふむ、やはーりでかいなぁ!!


「俺を召喚したのは、俺が願ったからか?」

「その通りよ。」

「なぜ、俺が選ばれたんだ?あの時、あんたは偶然だと言っていたが。」

「ああ、それは、くじよ。」

「くじぃ!?」

「そー、地球の中からてきとーに選んだらあなただったってだけ。」

「ふざけんな!そんな理由で異世界に飛ばしやがって!今すぐ俺を家に帰してくれ!」

「ええー、地球ってナグラリアの外ですごーく遠いのよ?いやよーそんなめんどくさいこと。」

「じゃあなんでわざわざ地球から連れてくるんだよ!?」

「そんなの私が知るわけないじゃない。上司の命令なんだからさ。」


 女神って上司とかいるの!?


「それに、これはあなたが望んだ事じゃない。自由な世界で生きたーい、って。」


 今の言い方腹立つなぁー。


「本当に、戻りたいの?」


 女神の深緑色の瞳が、俺を見つめる。

 俺は、どうしたいんだろう?

 このまま戻って、今まで通りの生活を送るのか?

 朝起きて、働いて、寝る。

 その繰り返しに、嫌気がさしてたのは、間違いない。

 だけど、いきなり異世界で生活しろって言われたって……

 俺が、思考を巡らせているとき、部屋の奥からリリアが出てきた。


「じいちゃーん、さっき変なねーちゃんに果物盗られた……って」

「あらー、さっきはどうもー。」

「なんでここにいるのよ!?」

「もともと、この人に会いにくるのが目的だもの。果物は、お・ま・け。」


 そう言うとミザリーは、俺を指さした。


「まぁまぁ、お茶がきたんだ、みんなで飲もう。女神様もどうですか?」


 やや空気になっていた村長が、久々に口を開いた。

 こんな迫力あるのに影が薄いだなんてと思ったら、ちょっと恐くなくなった。





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