第2話森の世界とサラリーマン①

真っ赤な夕焼けが見える。

俺は、ネギがはみだしたビニール袋をもった女性と手をつなぎながら歩いている。


ああ、これは子供の頃の夢だ、と気が付いた。

小さい頃、よく母さんの買い物について行って、おまけ付きのお菓子を買ってもらってたっけ。


今度実家に帰ったら、なにかうまいものでも食べに連れてこう。


『……き……さい』


なにか聞こえる?


『お…………さい!』


なんだって?


「いい加減おきなさいよ、このボンクラ!!」


バチバチバチバチッ!!


突然全身に電流が流れたようにしびれた。

いや、実際に流されている!

40ミリアンペアは確実に流れている!!

死ぬ!死ぬ!!


「うおおおああああ!やめろ、やめて!?」


ようやく電流が止まった。

10秒ほどたっぷりと流されたせいで、膝が笑っているが、何とか立つことができた。

ひどい目ざめだ、ニュースのお姉さんの顔をみて癒されたい。

顔を上げると、そこには一人の白いワンピースを着た少女が立っていた。


おお……

金髪!碧眼!とがったイヤー!!

そして、小さい!10歳くらいだろうか、それにしても可愛らしい顔立ちをしてらっしゃる、ふむあと8年だな、将来有望だ。

この子が俺に、電気をあびせたのか?


「やっと起きた、危うく殺すところだったわ。」


間違いなくこの子だった。

ここは大人として叱るべきだろう。

子供が犯罪すれすれの目覚ましをしたのだ、説教なんてしたことないが、この子の将来の旦那さんのためにもガツンと言ってやらねば。


「お嬢ちゃん、寝ている人に電撃浴びせちゃだめだろ?お兄さんすごい痛い思いしたよ?人の嫌がることしたらだめって学校でならわなかったのかい?」


おおう、ガツンとは言えなかったが、割と大人っぽく説教できてるんじゃないかこれは?


「ファック、お前らに人権などない。」

「!?」

「あと貴様は、おじさんだ。」

「!!?」


とても子供から出たとは思えない言葉に驚いてしまった。

しかし焦るな俺、最近の子供は早熟なのだ。

冷静になれ冷静に。

ここで怒鳴ればそれこそ大人げないというものだ。


あれ?そういえばここはどこだ?

俺はたしか、いつも通り会社に出勤しようとして、なぜかパラシュート無しスカイダイビングしたはずだ。

いやスカイダイビングしたよな?ちょっと自信ないぞ?現実的じゃなさすぎる。

少なくとも、いまここは、俺のアパートではないことは確かだ。

俺の部屋が、いくら素朴な1DKとはいえ、全面木製のこの部屋よりは現代風だ。

うん、いいぞ俺、冷静じゃないか。


「あー、ところでお嬢ちゃんここはどこなんだい?お・に・い・さ・んに教えてくれないかな?」

「そんなことも知らずに来たのか、とことん救いようのないアホだな。」


笑顔だ、俺!スマイルを維持しろ!

エルフ耳の少女は、やれやれといった感じで口を開いた。


「ここはナグラリアの世界の一つ、緑の世界ポックルだ。」

「お前はきっと異世界からきたんだろう、この世界でそんな服を着ている奴はいないからな。」


意味が、分からなかった。

ナグラリア?世界?

なんだそれは。


「あはは……、それはなにかの遊びかな?異世界ごっこ?お父さんかお母さんは近くにいるかな?」

「ファック!アホのうえに、理解力もないのか。お前は、自分の世界から、こちらの世界へ飛んできたのだ!」


ちょっとまて、ちょっとまってくれ頼むから。

この子は何をいっているんだ。

俺が異世界に飛ばされたっていうのか?

そんなことがありえるのか?

心当たりはあった。

今朝の夢、玄関からスカイダイビング、エルフ耳の少女。

それが現実だとするならば、俺が今いるここは、本当に異世界なのかもしれない。


「……ふふ、ははは」

「あーはっはっはっはっはっは」

「なんでやねーーーん!!!?」


狭い木製の部屋に、俺の声が響き渡る。


「ファック!急に叫ばないでよ!!」

「叫ぶわ、めっちゃ叫ぶっつーの!なんでいきなり異世界きちゃってるの俺!?事前説明もなしに!Why!?」

「発音いいな、お前!お前の事情なんて知らないけど、村長がお呼びだからついてこい。」

「ソンチョウ?」


村長。

てことは、ここの偉い人か。

ならきっと、俺がここに来た原因も知ってるんじゃないか!?


「ぜひ、会わせてくれ!!」


俺は、エルフ少女の肩をがっと掴んだ。


「ひっ!私に触るんじゃない、このブタ野郎!!」


エルフ少女の金髪が光輝いた瞬間、バチバチっと音がした。


「おおおおあああああああ!?」


同時にさっきよりも強烈な電流が俺の体を駆け巡る。

あ、これヤバイ、昔の映像が見えてきた。

母の日のプレゼント、運動会、学校卒業と入社式。

これって走馬燈?うふふ、お母さんだーい好き。


パチンという音と共に、電流は止まった。

少女の髪は、もう光ってはいなかった。


「はっはっはっはぁー」


少女が息を荒げいる隣で、俺は、痙攣しながら崩れ落ちた。

電気の取り扱いには、最新の注意が必要……です。

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