ディレクター室田克也は、私の前に坐っていた。
ディレクター室田克也は、私の前に坐っていた。
彼はなかなかのイケメンで、惚れっぽい私が恋に落ちるのは簡単だった。彼はコーヒーをブラックで、私はカフェオレとB.L.T.サンドを頼んだ。実は私たちが会うのは、これが初めてだった。
『おなか空いちゃった。B.L.T.サンド大好きなんです私。ベーコン、レタス、トマト最高じゃないですか?メニューにあるとついつい頼んじゃうんです。』
いいんじゃない?好きなだけ食べなよ。と彼は言った。
初めて誰かに会う時、出来る事ならはじめましての挨拶から始まる会話を一番避けたい。なんか周りで聞いている人たちにあぁ、初めて会うんだこの二人。と思われたくないからだ。大概の人は、初めましての挨拶をしている男女に遭遇すると、男の顔と女の顔をちらりと覗き、年齢差を見極めて二人の関係を最も下位にランク付けし、軽蔑したような目線を送り、即座に空間ごと存在を削除するのだ。そんなんじゃないと信じたい私にとっては、見ず知らずの人による安易な決めつけが、私を惨めな気分にさせた。
そんなんじゃない。彼と私は、そんなんじゃない。と、まだ23歳の私は純粋で、誰もがうらやむ運命の人との恋愛を夢見る乙女だった。
私が得意な事は、ご飯を美味しく幸せそうに食べる事。得意な事だなんて言い方をしたが、いつもよく美味しそうに食べると褒められるから特技だと認識するようになったくらいで、努力の賜物でもなんでもない。単に、好きなものを食べる事なのだが、今日も例外なくB.L.T.サンドを食べる私を、彼は嬉しそうに褒めてくれた。
山口洋子著『演歌の虫』より、最初の一行目のみ拝借
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