青白い夜が波のように寄せてはかえしている。
青白い夜が波のように寄せてはかえしている。
満月の明かるさに吸い込まれそうになるのを、地球の重力に阻止されている。地上8階建てのこの旅館の最上階に用意された、露天風呂に真夜中にきてみた。海は目の前で波の音がよく聞こえる。魂を持っていかれそうな、夜の海に一歩足を踏み入れてしまっているような恐ろしさと露天風呂の心地よい湯加減に、日常では味わえない感覚に陶酔している自分がとても愛おしく感じた。
いつもは、夜の海なんて怖くてずっと見ていられないのに、満月の明かりが照らす海の美しさに心を奪われていた。
でも、一人でくるんじゃなかった。と、後悔するのはこのすぐ後だった。
嫌な予感が、起こりそうな空気に一瞬で変わったのを察知しと同時にもう諦めて、受け止めるしかないとこれから起こる事を覚悟した。
こんな夜中に、誰かが露天風呂の扉を開けてやってきたのだ。
客でも、従業員でも、いたずら好きな猫でもない。限りなく、人の形をした人。そう、人だ。でも、ずっと私はその人がこの世に生のある人であるか疑うも、
人であると認めないと恐怖で死にそうになった。
青野聰著『愚者の夜』より、最初の一行目のみ拝借
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