第8話 鍛冶師を仲間にしました

それからしばらく歩くと、目的地の鍛冶屋が見えて来た。


「ここが、ドルトンの言っていた鍛冶屋ね・・・すいません、どなたか居ませんか?」

リルーエットは、少し大きめの声で言った。


すると、奥の方から後ろで髪をまとめ、いかにも鍛冶職人という感じの女性が出て来た。

「待たせたねぇ。お嬢さん今日は注文を出しに来たのかい?それとも冷やかしかい?ウチは受注生産だから、出来合いの品物はないんだ」


「わかりましたわ。それでは、鍬を20くらい注文したいのですが・・・」


「鍬かい、悪いけどウチではそう言うのは作って無いんだ」


「へぇ、ドルトンに聞いてた事とは大違いねぇ。ここなら、私が欲しい物を作ってくれるし、品質の高さも他に抜きん出てる。って聞いたのにねぇ。残念だけど、作る品物を選り好みしている様では、ドルトンの言っていた品質も、話し半分で理解していた方がいいわねぇ。そんな鍛冶屋こちらから願い下げですわ。レフィーナ、ウィンネ、さっさと外を探しましょう」

鍛冶職人の女性は、リルが話し終わると、顔を真っ赤にして怒り出した。


「ふざけるな!!さっきから聞いてりゃぁ好き放題言いやがって・・・よーし分かった。その話とやらを聞かせて貰おうか」

そう言って、リルの腕を掴む。


「いや、冗談でしょう?さっきも言ったけど、こんな三流鍛冶屋なんて用は無いわ。それなら、その辺の二流鍛冶屋で頼んだ方が百倍ましよ。さぁ、その手を離して下さらないかしら。いい加減にしないと衛兵呼ぶわよ・・・あぁ、ダロンおじいちゃん、貴方は何で死んでしまったの・・・でなければこんな鍛冶屋に来なかったのに・・・」

女鍛冶師は、ダロンの名前を聞いて驚きの顔になった。


「い、今、ダロンって言ったよなぁ。あたしのお師匠様に会った事があるのか?」


(かかった。このひとがダロンおじいちゃんのお弟子というか、孫というのは、ドルトンに聞いていたし、少々(?)頑固者という事も聞いていたから、素直にこちらの依頼を受けるとは思ってなかったのよね。だからひと芝居打って正解だわ♪)


「ええそうよ。当時のわたしはぼっちでしたわ。まぁ、わたしの前後の年令の子が不思議な事にいなかった事もあるし、父様は仕事でしょっちゅう家に居なかったわ。それに、母様もベッドに居る事が多かったから、自然とぼっちになったわねぇ。おじいちゃんの所に初めて来た時は、「ここはガキの来る様な所じゃねぇぞ。あっちに行ってろ」って邪険に扱われましたが、しばらく通っているうちに、自身の鍛冶姿を見せてくれましたわ。さらにしばらくすると、包丁の研ぎなんかもさせてもらえる様になりましたわ。楽しかったですわ・・・本当に。そんな事も長くは続かなかったわ。ある時突然、おじいちゃんが倒れてしまったの。おじいちゃんは「こんくらい大丈夫だ」って言っていましたが、無理矢理医者に診せましたわ。そしたら、その医者が言うには「こんな状態で良く我慢出来ましたねぇ。残念ですが余命はもって半年です」ええ、一瞬目の前が真っ暗になりましたわ。あの楽しかった時間が終わってしまうんだ・・・って。それからは、依頼をほとんど断って養生させましたわ。全て断らなかったのは、研ぎ直しや簡単な修理なら私が出来る様になっていたので、そういう依頼は受けましたわ。中には「嬢ちゃんがダロンじいさんの後を継ぐのかい?」と言っていましたが、わたしは首を横に振り、研ぎ直しや簡単な修理までしか教えて貰って無い事を告げました。最後おじいちゃんが亡くなる前に「ありがとうな、リネルメん所のリル嬢ちゃん。いつからだって?そりゃ最初からだよ。ヤツとは、ヤツが騎士学校時代からの付き合いだ。まだその頃は、王都に店を構えていていろいろ依頼を受けていたんだ。最初に会った時は、何だこの失礼なガキは。って思ったさ」「まぁ、まるでわたしが来た時の様じゃない」「ハッハッハッ。まったくその通りだ。でな、いろいろ作ってやったさ。ヤツの剣や防具に、ヤツの領民が使う農具まで。今となっちゃぁ楽しい思い出だ。ワシはもうそう長く無い、ワシから嬢ちゃんに最後の頼みがある。聞いてくれるか?」「良いわよ」そうして、翌日の朝におじいちゃんは逝ったわ。・・・さて、間違いで無ければ、貴女はおじいちゃんの一番弟子であり、実の娘のターシャさんね?おじいちゃんから手紙を預かっているわ」

あたしはそう言うと、懐から一通の封筒を渡した。


手紙の内容は直接見てないので分からないが、おそらく、おじいちゃんとターシャさんは喧嘩別れしていて、最後まで仲直りできなかった事への悔やみと、ターシャさんへの謝罪何かが書いてあると思う。臨終に際して、おじいちゃんからターシャさんへ「最後まで愚かな父親ですまなかったと伝えてくれるか?」と伝言も貰っているので、およその内容が分かる。





「お、おやじィ・・・あたしの方こそ悪かったよ」

手紙を読み終えただろうターシャは、滂沱の涙を流し、絞り出す様な声でそうつぶやいた。





しばらくすると、ターシャは涙を拭き、こちらを向いた。


「あたしのおやじの最後を看取ってくれたんだな。ありがとうよ。あたしはあんた・・・リルにはおやじを看取ってくれた恩がある。これを返すにはどうしたらいい?」


「そうねぇ。それなら、わたしの領地に来てくれる?場所は確保してあるし、道具だっておじいちゃんが使ってたのを大切に保管しているわ。これでどうかしら?」


「なんだい、あたしが行く事が前提で話していたのかい。敵わないねぇ。見た目で舐めて掛かると痛い目を見るわ・・・分かった。リル。あんたの言う通りにするよ。ただし、この工房の整理が終わってからになるけどいいかい?」


「分かったわ。あと、爵位継承の手続きの為に五日くらい滞在するから、そんなに急がなくて良いわよ。何か会ったら宵闇の盃亭に来てちょうだい」


「へぇ。上は高級宿、下は飲んべえのたまり場な所に泊まっているのかい?」


「あぁ、やっぱりあの宿屋、飲んべえのたまり場なのねぇ・・・」





「ゼル、ゼルは居るかい?」

そうターシャが言うと、奥から一人の青年が出て来た。


「何すかぁ?親方」


「何すかぁ?じゃない!・・あたしはこれからこの嬢ちゃんと一緒にリネルメに行くから、後の事はあんたに任すよ」


「え~!!そんなのオレには無理ッスよ」


「つべこべ言うんじゃないよ!あんたには、あたしの業を一通り教え込んだはずだよ。だから、無理だとは言わさないよ。それに、そろそろのれん分けさせようと思ってたところさ。あたしから出来る助言は、品物と値段、どちらも妥協するな。とだけだ」


「ホントにいいんすかぁ?オレやるッス。初めて親方に認められたんだから頑張るッスよ」


「ゼル、じゃあ頼んだよ」


「了解ッス」

そうして、あたしとターシャは鍛冶屋をあとにした。




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