第3話 精霊様とくつろぎました

ーカップを持ったマチルダが居た。


(うわぁ、見られちゃったよ。怒ってるっぽいなぁ何て説明するかなぁ?ってか、さっきの音はお盆を落とした音かぁ。で、お盆に乗せてたティーセットは落とさずと、流石はスーパー駄メイドのマチルダ。スキルの無駄使い。ってかどうしようかしら・・・)


怒られると思って思案していたら、180度真逆の回答がマチルダから来た。


「まぁまぁ、お嬢様流石ですわ精霊様を召喚なさるなんて。しかも上級精霊クラスと思われます。精霊魔法を熟達した者でも召喚出来るかどうかはわかりませんし、例え召喚出来ても下級精霊が精々なのに、お嬢様は上級精霊を召喚してみせた。私でも中級精霊のレミルちゃんしか喚べませんのに・・・精霊様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、お嬢様にお仕えしています、セルゼ族族長の娘のマチルダでございます。以後お見知り置きを」


(怒るどころか喜ぶし、しかもサラッと自慢してるし・・・)


『ガル族族長のレフィーナよ、ヨロシク、マチルダ。レミルからいろいろ聞いているわ。貴女の父君は残念に思うわ。私の一族とも良好な関係であったし、あの内戦が無ければ、今でも私の手の者を何人かは奉公に出した筈だから、本当に残念だわ』


「精霊様ありがとうございます。そうおっしゃって頂けて、父もあちらで喜んでいると思います。精霊様には、今後ともお嬢様をお見捨てにならい様、お賜り頂ければと思います」

マチルダは、レフィーナと対峙すると、終始方膝を着き頭を深く下げた状態だった。


『マチルダ、勘違いしてはダメよ。私がリル様を見捨てる訳微塵も無いわよ。今後も頑張ってリル様に仕えてちょうだい。私は、リル様の願いである、親・・モゴモゴ・・・リル様ぁ、お口塞いじゃイヤですわ』


「レフィーそれは秘密だってば。誰にもしゃべっちゃダメよ」


『申し訳ありません。リル様、以後気を付けます』


(ったく、何を口走ろうとしてるかこの駄精霊め。しかし、駄目繋がりでマチルダと気が合うかも知れないわねぇ)


「そうそうマチルダ、朝食が出来たのではなくて?」


「そうでしたわ。お嬢様、食前茶をお持ち致しました。精霊様は如何なさいますか?この部屋には、突然来訪するお客様用のティーカップが10組ばかりございます。さすれば、ご所望ならば精霊様の分もご用意させて頂きますが、どうなさいますか?」


『それではせっかくだから頂こうかしら』


「承知致しました。それでは、私の最高の紅茶を淹れさせて頂きます」


(えっ?最高の紅茶って、どう見ても冷めてるのじゃないの?)


「お嬢様、冷めてもいませんし、そもそもポットの中には茶葉だけですわ。これからは、私の腕の見せどころですわ」


どうやら、副音声がただ漏れだった。

ばつの悪い思いをしながらも、マチルダの技を見ると・・・


『すごいわねぇ、火魔法と水魔法をこういう感じに使うとは。しかも茶葉に注ぐ温度も、これ以上無い位の適温。芳しい紅茶の香りが辺り一面に漂うわ』


(ただ紅茶を淹れているだけなのに、こんなにも紅茶のいい香りがするとは。前世の紅茶専門店の店内でも、ここまで香りがする事はなかったわ)

それも1・2分の出来事である。マチルダの魔法技術の凄さの一端を垣間見る事が出来る。


そうしているうちに・・・

「お二様方、出来ましたわ。どうぞお召し上がりください」


マチルダはそう言うと、まだ芳しい香りがするティーカップを、あたしとレフィーナの前に差し出す。

それを一口飲んだ途端、口の中いっぱいに紅茶の香りが広がる。


(こんなに美味しい紅茶を飲んだのは初めてよ。さすがはファンタジー世界と言った所かしら?日本では絶対不可能よこんな淹れ方。まぁマチルダのチートさ加減も有るのだろうけど・・・)


『馳走になったわ。とても美味しかったわよ。また機会が有れば淹れて下さるかしら?』


「それはそれは、お気に召して頂けて光栄に存じますわ。当然、精霊様の口振りから察しますと、お嬢様の守護精霊になって頂けるご様子。それなら、お嬢様が紅茶を頂く際は、ご一緒出来ますわ」


『そうなの?それなら、守護精霊にでも、何にでもなるわよ。本当にいいのね?リル様が紅茶を飲む際は、私の分も用意して貰うわよ。あと、いつまでも精霊様って呼ぶのは止めてちょうだい。私にもレフィーナという名が有るから、今後はそう呼んで下さるかしら?』


(うわぁ。レフィーのヤツ、マチルダに胃袋をガッチリ捕まれたわねぇ)


「承知致しましたわレフィーナ様。それではお嬢様、お食事に参りましょう」


その後、朝食を終え、セバスチャンの待つ馬車に乗り込む。その際、護衛の何人かは、レフィーナの存在に驚くが、直ぐに気持ちを切り替えるも、セバスチャンは驚くそ振りも無い。


(まぁ、パーフェクト家令のセバスチャンだから、リルが幼少の頃から精霊と親しんでいたのを知っていてもおかしく無いわね)

そうして、一行は王都に向けて出発するのであった。



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