第2話 家令とメイド長がチートでした

翌日、あたしはが目を覚ますと、図ったかの様に扉をノックする音がする。

「おはようございますお嬢様。これからの事についてご相談がございます」


(セバスチャンだ。図ったかの様・・・というか、さてはあたしが起きるのを待ってたな?)


「どうぞ、開いてるわよ」

そう告げると、ゆっくりと扉が開き、セバスチャンは恭しく頭をさげる。


「それでは失礼致します」


「そちらに腰を掛けてくださるかしら」


「承知致しました」

セバスチャンはまた頭をさげると、ベッドの近くに有る椅子に座ると話しを切り出した。


「お嬢様、それでは性急で申し訳ありませんが、お嬢様の支度が整い次第、王都に向けて出発したいのですが、構いませんでしょうか?」


「ホント性急ね、事情が事情だから仕方無いけど大丈夫なの?王都まで急いでも馬車では三日掛かるわよ?」


「そちらは何ら問題はございません。護衛部隊の手配から、食糧の事まで万事済ませております。後は出発するだけです」

(何?もう、あたしが支度すればいいだけなの?何よこの有能っぷりあたしがチートじゃなくて、セバスチャンがチートな訳?)


その困惑加減は顔に出さず。

「あらそうなの?なら支度をするからメイド長のマチルダを呼んでくれないかしら?」


「畏まりました」

そう言うと、セバスチャンは頭をさげて退室する。





しばらくすると、扉をノックする音がする。

「お嬢様、お待たせ致しました」

マチルダだ。


「開いてるから、入っていいわよ」


「お嬢様、失礼致します」

マチルダは扉を開け、軽く会釈をして室内に入って来ると、クローゼットを開け。


「さぁお嬢様、お着替え致しますわよ」


「お着替えって、それくらい自分で出来るわよ」


不意にマチルダは驚く。

(何!そこ驚く所?・・・しまった、マチルダはまだあたしがあたしじゃなくなっているの知らんわ)


「せ、せっかくの晴れ舞台なんだから、そういう気分なのよ」


あたしがそう言うと、マチルダは泣き出す。

「ホントにご立派になられて、このマチルダ嬉しゅうございます」


(マチルダってば泣き出したよ!ホント、ウチって涙腺弛い人多いなぁ)


「ほら、マチルダ、嬉しいのはわかったから、早く支度しないと出掛けるのが遅れるわ」

そう諭すと。


「申し訳ありません取り乱してしまって」

そう言うと、マチルダは直ぐに支度に戻る。


(そういえば、マチルダってダークエルフなのよね)




そう、メイド長であるマチルダは、ウチでは唯一人間以外の種族である、ダークエルフである。


この世界のエルフとダークエルフは、良くあるファンタジー物と違い[坊主憎けれりゃ袈裟まで憎い]という様な事は無く、至って平穏な関係である。


大昔、種族の滅亡の危機と言われる災害が起きた時、集落から北に新天地を求めたのが今のエルフで、南に新天地を求めたのが今のダークエルフと言われているらしい。


気候的に言うと、エルフは、温帯か多少寒冷な気候の所に多く分布していて、ダークエルフは、南、つまり熱帯や亜熱帯、若しくはエジプトの様な暑い砂漠気候の所に多く分布している。

だからダークエルフは色黒らしい。

この話は、後でマチルダに聞いた事だ。

エルフ族の間ではほぼ定説らしい。


ちなみに、何でそんなマチルダが温暖な気候のウチに居るかと言うと、何でも父ちゃんがまだ母ちゃんと結婚して無くて、侯爵家の四男坊だった頃にまで遡るらしい。


その頃、マチルダの故国は国を二分した内戦の真っ只中で、マチルダが住んでいた所は体制側の重要拠点の一つだったのだが、反体制側の猛攻撃を受け、抵抗むなしく陥落した。


その後、街に反体制側の兵士が進駐した際、反体制側の一部の兵士に、街に居た多くの女性は種族に関わらずいかがわしい行為をされたという話だ、マチルダはその時偶然体制側の依頼で住民の脱出を手伝っていた父ちゃんに間一髪で助けてもらったらしい。


マチルダは恩義を感じ、一緒に付いていくと言ったが、父ちゃんは、たまたま仕事で居合わせただけで、義務的な物だと断りってどんなツンデレだよ父ちゃん・・・それでも無理やり付いて来たという話だ。


(まぁ、マチルダはダークエルフだから、エルフより短命だが、少なくともあたしらの10倍は長生きという事だから、見た目通りの年じゃないのは確かだな。でもマチルダって今、年はなんぼなのって聞いたら後が怖いからこの手の質問は封印だな。)

ちょっと失礼な事を考えつつ支度をしていく。





「マチルダ、支度が終わったわよ」

と、告げると。


「まぁまぁお嬢様、馬子にも衣・・・コホン、とてもお綺麗ですわ」


(何この駄メイド、言うに事欠いて馬子にも衣装とか言いそうになりやがった)

ギロッとマチルダを睨むも、涼しい顔してスルーされてしまう。


仕方無いので気を取り直して。


「支度も終わった事だしお腹が空いたわ。朝食は用意出来ているかしら?」


そう尋ねるとマチルダは。

「全て下ごしらえは終わっていますので四半刻も頂きませんわ」


(下ごしらえが終わっている上に、調理完了までに30分も掛からないとか、一人で屋敷の人間21人分(あたしと母ちゃん+使用人19人)の料理を賄うのに・・・マチルダもマチルダでチートよねぇ)


「それなら、父様の執務室に行って居るから、出来たら呼んでくれないかしら?」


「承知致しましたわ」

マチルダはそう言うと会釈をして下がる。

その後、あたしは父ちゃんの執務室に行った。




(よ、読めん)

転生して異世界に来たのだから、文字やうんたらかんたら違うのは一応想定していたが、普通に会話が成り立っていた事も有り、凡そ失念していた。


(そうだ!目をこらせば・・・何?冗談半分でやっていたら読めて来たわ)

その時、ピコーンと頭の中で何が鳴った様な気がした途端

(何よ、[ザルヘルバ語(読み)を習得しました]って)

そう、ロールプレイングゲームのようにスキルを習得した事に対するメッセージが流れたのだ。

(な、なんじゃこりゃ・・・という事はひょっとして)

今度はステータス参照と念じて見ると

(!!・・・ステータス見れたジャン)

ちなみに、あたしのステータスです



名前/リルーエット・リネルメ

年齢/17

種族/人間

レベル/2

HP/25

MP/448

攻撃/8 魔法攻撃/257

防御力/10 魔法防御/242

筋力/5 体力/6 知力/79 器用/14 素早さ/8 運/19

B.P/6

属性相性

水/100% 火/98% 土/79% 風/100% 闇/62% 光/83%

ジョブ/領主娘

爵位/無し

スキル

ザルヘルバ語/日常会話・読み

礼儀作法/4

社交ダンス/2

水魔法/3

精霊魔法/MAX

古代精霊魔法/45


以上

(何!?ツッコミ所沢山有るけど精霊魔法MAXって。何なら、精霊さん精霊さん、なんて念じたら精霊が現れる訳?何の中二病よ。そんな話有るわけ・・・・・)


愕然とした。

目の前に、見目麗しい女性の幽霊の様な者が現れた。これが精霊なのだろうと思った。


『マスター如何なさいましたか?マスター?おーい戻ってこーい』

何ともユーモアの有る精霊だ。緑色をしているから差し詰め風の精霊だろう。


「だ、大丈夫よ何でも無いから」


『それでは改めてご挨拶させて頂きます。私は風の精霊族の一つを束ねるガル族族長のレフィーナと申します。今後ともヨロシク。私共は、普段からリルーエット様には良くして頂いていましたが、貴女様はどうでしょうか?』


(!?)

あまりの衝撃告白に息を呑む。


「な、何を言っているのかしら?わたしはわたしよ?」

しゃべる声も自然と裏返ってしまう。


『貴女様はリルーエット様であってリルーエット様ではありません。・・・・異界より来る来訪者よ』

またも驚き息を呑む。


彼女は更に。

『お隠しになられても無駄ですわ。私には貴女様の持つ魂の色がリルーエット様のものと若干違うのが分かります。もっとも、リルーエット様は私共に大変良くして頂いたのに、近々寿命が尽きる事を知ったので、一族の者と悲嘆に暮れていましたが、どういう事でしょう、尽きると思われたその命数が、尽きるどころか溢れんばかりでは無いですか。それを感じたのが昨日、一族の者を諭し急いで来てみたら、別の者がリルーエット様の中に入っているではないですか。悪霊ならば身命に代えてでも悪霊を祓い、リルーエット様に安んじて頂こうと思いましたが、状況が違うので、お気付きなられた昨晩から様子を伺っていました。・・・これでも違うとおっしゃるのですか?』


(うわぁ、全部バレとる。こりゃ腹を割って話さないと悪霊よろしく祓われるやん)


「わかったわ、確かにあたしはリルーエットであってリルーエットでは無いわ。日本という国に居たけど不慮の事故に会い、死んだと思ったら、このリルーエットと一つになっていたのよ・・・」


それから、親孝行が何だのこれからの事が何だのって話してたら、レフィーナは滂沱の涙を流していた。


『さぞやお辛かったでしょう。・・・分かりました、この不肖レフィーナ粉骨砕身の思いで縷慧様が今世で親孝行出来る様に頑張らせて頂きます』


「そんなに、して貰わなくていいわよ・・」


『えっ!それでは縷慧様は私共は必要ないと!?』


「そんな事無いわよ。私は、私の事を知って思ってくれているレフィーナの事を必要無いとも、嫌いとも思って無いわ。むしろ、こちらこそ今後ともヨロシク。と言った所かしら?後、縷慧様は止めてちょうだいな。このわたしは、あたしを助けてくれたわたしであり、レフィーナさんが敬愛するわたしなのだから、今後はリルって呼んでちょうだい」


『ありがとうございます。リル様』

レフィーナはそう言うと、あたしを抱きしめて来た。


その刹那、ガチャ-ンとうしろから、何かを落とした音がした。



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