一章 爵位継承

第1話 領主を継ぐ事を決めました

「えっ!か、母様、父様は死んでしまったの!?」


「そうよ、あなたが気が付く二日前の朝に息を引き取りましたわ」

母ちゃんは陰鬱な表情でそう言った。


「あの、死神すら逃げ出すと言われていた父様が・・・」

豪放磊落で、戦争に出てもここまで無敗、土付かずの父様が病に因って負けてしまった事と、あたしは、こっちの世界の父ちゃんにはもう親孝行出来ない。

という二重のショックを受けた。


不意に開け放たれた扉を叩く音がする。


「奥様、宜しいでしょうか?旦那様がお亡くなりなられたのは誠に遺憾ですが、これからの事について決めておかねばなりません。次の辺境伯にどなたが成られるのかと、爵位継承若しくは爵位返上の旨を王都で行わなければなりません。期限は30日です。過ぎますと、当リネルメ家は財産没収の上、お取り潰しになります。前例では死刑というのもありますので、楽観視せぬ方がよろしいですな。出仕出来ずの旨を出せるのは次回が限度ですぞ」

そう、当家の家令のセバスチャンは告げた。


あたしが転生したこの領地は、王都に近く数日も掛からない。

それが禍して十五日に一度王都に出仕せねばならない。


セバスチャンが言うには、前回の出仕予定日は十日前で、今回は、『病気療養にて出仕出来ず』という旨を出しているので、十五日後、つまり今日から二十日後の次々回にまた出仕出来ずの旨を出したら、十日後見舞いも兼ねて王都から使者が確認にやって来る。

当然、当主不在の理由を根掘り葉掘り聴かれる事になるので、その過程で父が亡くなった事も知られる。


そうなると、死亡した日を含めて日数の勘定が行われるので、今日から数えると使者が来る日は30日後で、父が亡くなった日から数えると32日となり、期限を過ぎてしまう。


準備は片手指折り数える程度では足りないので、どちらにしろ出来るなら今直ぐに準備を始めて仕舞わねばならない。


平民なら葬儀を執り行い、それから色々今後を話し合うのだが、あたし達は貴族なのでそれが許されず、当主が何かしらの形で以後公務が出来なくなった場合、なら速やかに王都に行き、どうするかの旨を伝えないとならない。


今回は、この領地のみならず、王国内で流行り病が流行して混乱していたので、何とか誤魔化したが、30日後に使者が来るのは法で定められた決定事項であり、曲げる事の出来ない事である。


(何?今のまま一ヶ月を過ぎると最悪処刑?冗談じゃない、こちとらまだ母ちゃんに親孝行して無いのに、またあの悲しみを味会わせる気か・・・・冗談じゃない)

気が付くとあたしは言葉を紡ぎだしていた。


「ちょっといいかしら?セバスチャン、後継の領主にはあたしでもなれるかしら?問題無いならわたしが父様の後を継ぎたいのだけど」


「り、リルあなた・・・」


「!!お嬢様、それは誠ですか?」


「当然ですわ、せっかく父様が残してくれた貧しくも大切なこの領地、他の者に任せる事はいきませんわ。それに、わたしはまだまだ母様やみんなと一緒に居たいし、セバスチャンこんな理由ではダメかしら?」

あたしがそう言うと、セバスチャンはおもむろに懐からハンカチを出した。


「お嬢様、ご立派ですぞ今は亡き旦那様も天国で喜んでおいででしょう」


(うおっ!セバスチャンが急に泣き出した!先ほどの事から冷淡な人かと思ったけど、ホントはおセンチな人だったのね)

そう、セバスチャンはハンカチを取り出した後、号泣したのだ。



良く見ると、母ちゃんも泣いてた。

「まぁまぁ、リルやリル、こんなに立派になって母様嬉しいわ」


気が付くとあたしもつられて泣いてた。

(あれ?あたしってこんなおセンチだったけ?でも、母ちゃんもセバスチャンも喜んでいるみたいだし頑張ろう!)

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