第4話 ─兎─


「──────やっっっっと切れたぁぁ!!」


「后様」

「兄さん」

「后」

「「我が皇子」」


5人、同時に后の名前を呼んだ。


「わー、すげーシンクロ率ー(現実逃避)」

「聞きたいことが、いろいろあるんですが」

「ねぇ兄さん、今の誰?」

「声とかからして、女だよな」

「知り合い?」

「親戚の方とかですか?」

「もしかして、俺らに秘密の、彼女とか?」

「そうだったら、どんなに良いか…

 というか、質問を1つにまとめてくれ」


「そうですね…

 電話の相手の女は誰なのか。

 その女のとの関係。

 会合とは何なのか。

 何の10周年記念なのか。

 隠している事洗いざらい話して下さい。

 私からはこんなもんです」


「──えーっと、

 桜 癒舞って知ってる?」

「もちろん知ってますよ」

「オモテのトップだよね」

「我が皇子、知ってるんだ」

「癒舞って、オレなんだ」

「「「「「───え?」」」」」

「えっと、とりあえず自己紹介?

 ──オレの、もう一つの名は桜 癒舞。

 桜月歴代最年少の63代目現当主。

 まぁ、癒舞ってのは桜家─桜月の血を引く

 者としての二つ名みたいなものかな?」

「──ちょっと待って。現当主って、

 10年前から当主になってるよね?」

「うん。だからオレ、10年前の7さ…

 6歳の時に、桜月の当主になったんだ」

「10年…だから10周年って事?兄さん」

「そーゆーこと」

「では、先代─桜 癒羽と言うのは」

「…もしかして、お母さん?」

「そ、正解。

 あと、電話の相手は、月神三姉妹当主の

 舞苺まい舞琴まこ舞音まお。血は繋がってないけど

 兄弟姉妹きょうだいみたいなものかな?

 んで会合は明日あるけど、御簾越しだし

 話したりもしないから暇なんだよなー…

 自慢話とか悪口とかばっかりだし」

「当たり前でしょ、桜月だよ?

 神代グループ─神代白より偉いんだよ?」

「うん──まぁそのお陰で白に正体バレてな

 いんだけどな」

「ねぇ兄さん、でも桜月の当主って、

 それを示す刻印?があるんでしょ?

 僕、見たことないよ?」

「あー…えっと、月の能力は危ないから普段

 は封印してるんだけど、それと一緒に

 桜月兎──その刻印も隠れるんだよな」

「我が皇子、危ないのになんで…それに、

 最年少なんて、そんな小さい頃から。

 ………我が皇子は、守られる立場なのに」

「当主は、月の神が選ぶ。

 それにオレの代はオレしかいないから……

 ─そんな心配そうな顔しないでも大丈夫。

 普段はこうして皆に守ってもらってるし、

 前は三姉妹が守ってくれてたし。

 最近は暗殺とかも減ってきてるから平気」

「…暗、殺……」

「……なんで言ってくれなかったんですか?」

「これは親父も知らないことだし、それこそ

 暗殺とかを避けるためにも、当主の正体を

 知る人は殆ど居ない。

 現状、当主の正体を知っているのは

 前当主─桜 癒羽であるオフクロと

 3代前の桜家の長女である祖母、

 そして月神グループの三姉妹当主である

 舞苺、舞琴、舞音の5人だけなんだ。

 ─それに現状闇世界の事で沢山迷惑かけて

 るのに、オモテの事でまで迷惑かけたくな

 いし、心配かけて、負担になったら嫌だっ

 たから……」

「負担?あんた、私達に負担かけてるとでも

 思ってたんですか?」

「そうだよ。それに、迷惑って何?」

「我が皇子、私達は我が皇子に仕え、御守り

 する事こそが生き甲斐なのです。

 負担どころか、迷惑など言語道断」

「もう、迷惑とか負担とか言うな。

 絶対、考えるなよ?」

「────わかった。ありがとう」


再びおんぶお化け状態になっている言の柔らかい髪を撫でながら、晴明と甘雨、破、華に素直に礼を述べた。


「───あのさ、」


言を離して、皆に向き合う。


「明日の夜、月満ちし時

 会合の始まりを告げる鐘が鳴る。

 ───皆も、もし良ければ来てほしい。

 過去に例外はないけど、

 そもそも現当主が次期闇皇なんて現状自体

 が例外だ。

 闇の人間にオモテの事を知ってもらう必要

 もあると思うし」

「僕は行くよ、兄さん。

 止められても政があっても、絶対行く」


即答かつ断言だったので苦笑しながらも、

晴明たちにも視線を寄越す。


「晴明たちは来るの?」

「俺は行くー」

「私も勿論行きます。

 后様の当主姿は見ない以外ありえません」

「当主姿っていっても座ってるだけだぞ?

 何か言うにしても三姉妹を通すし」

「それでも、上座に座す后様は珍しいので」

「……まぁいいや。

 華と破は?」

「僕は行く」

「私は仕事があるので…」

「ん、わかった」


とりあえず見学者が4人決まった。

あとは、比紗が来るとなれば御門も来ることになるだろう───それは何か、少し嫌だ。


「んじゃぁ、三姉妹に連絡するかな」

「楽しみだね、兄さん!」

「私は公務をバイトに言いつけますか」

「晴明様、霧砂にブラックなバイトさせるの

 はやめた方がいいと思いますよー」

「……晴明…」

「あ、后様、修行の時間ですよー」

「逃げましたね」

「ワー霧砂カワイソー」

「破…甘雨も、駄目…だと思うよ」

「ほらほら、修行ですってば。行きますよ」

「酷い兄さん!置いてかないでよ!!」

「そんな無茶な……てか晴明、苦しいっ!」


──明日の会合は、賑やかになりそうだ。

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