最終章 星の家族
6-1
揺れが一層増していた。まともに立っていられない程に振動が激しく、脳を揺さぶられる様な感覚を覚えながら、鈴護は掴んだ文月の手を離さぬ様に耐え続けている。
「こ、これは一体何が起きているの!? ふーちゃん!」
鈴護と文月は互いに身体を支えあい、そうする事で何とか地に踏み止まっていた。
「この島が、本当の姿を現す。その時が迫っています」
身長差的に鈴護の身体を抱き留める様な形になりながら、文月が虚空を眺めて呟く。
「本当の姿を、島が?」
その言葉に続いて天井が重音を上げながら開いていく。文字通りに中心から、まるでモーゼの奇跡が海を割るかの様に。
今まで暗闇に包まれていた空間に、一気に光が射し込んでいく。
月光。完全な深闇の中から抜け出した二人にとって、その柔らかい光は太陽光にも等しい程の錯覚を覚えさせる。
そして辺りが光に照らされた事で、この場所の全てが鈴護の目に映った。
「す、凄い。まるでSF映画の宇宙船みたい。この場所はこんな風になっていたんだ」
自分たちが今まで立っていた空間。機械と金属に包まれた、例の『宇宙船部屋』を広く大きくした様な場所。それが、この空間の正体だった。
目の前には、生物の様な『カケラ』の姿。漠然としていた全体像も、今やその姿の全てを晒し出していた。
「宇宙船と言うには少し語弊があります。地球環境に適応できない『カケラ』を維持する為の巨大な保護装置としての機能が、学校の本来の姿」
ジュライが天を見据えながら、曖昧な表情を浮かべている。
不安。緊張。そのどちらもが入り交じった様な顔で、少女はこれから訪れるであろう待ち人の姿を迎えようとしていた。
「『彼女』を常に傍で観測する為の役割を、この学校は併せ持っているのです」
振動音が壁や地面に鳴動し、響き続ける。一向に揺れが止む気配は無い。
その揺れの中、ただ大地が振動している訳ではなく、地面が段々と上昇しているのだと気が付いた。天井に開いた穴と、地面の高さが徐々に幅を狭めていたからだ。
「ふーちゃん。この場所は一体どこまで昇り続けるの……?」
「もうすぐです。後少しで舞台は『約束の場所』へと辿り着きます」
――約束の場所。文月と言う人間の行く末を決定する、選択の日。彼女の短くもあり、長い旅路の終着点。
徐々に、ゆっくりと床がせり上がり、長くも短くも感じる時間をかけて、やがて完全に天井の穴と一体化する。カケラの間が外気に晒された事で、周囲の風景が一変する。
気が付くと二人は、木々に囲まれた広い草原の中心に立っていた。
「ここは、あのクレーターがあった場所? そうか、あの時ふーちゃんが言っていた事は」
月夜に照らされた広大な草原。その中心に立つ鈴護達。そして、先程まで地下に存在していたカケラの間が、あの大きなクレーターをすっぽりと埋めていた。
「ふーちゃん。この場所が『コンタクト』の場所なんだね」
先日、少女と一緒にこの場所を訪れた時、彼女が「この場所で宇宙人になる」と言っていた事の意味に、ここで漸く合点がいく。
「はい。私の、始まりの場所。『カケラ』から生まれ出でた私の原点とも言える場所です」
樹木の生い茂る森の中に、突き出て佇む異質で歪な巨体。
改めて眺める『カケラ』は、やはり圧倒的な雰囲気をかもし出している。
今まで地下に埋れていた部分が上昇し、露出した事で、その全長は今や一週間前に見た時とは段違いに巨大な物へと変化していた。
満点の星空の向こう。この『カケラ』と言う物体は、果たしてどれ程の大きさがあり、一体どこまで伸び続いているのだろうかと、鈴護は呆気に取られながら考える。
「来ました」
文月が呟く。カケラの一点を、少女はじっと見つめ続けていた。
その合図に伴うかの様に、今まで淡く光を発していたカケラに突如変化が現れる。
カケラが一層光り輝き、目が眩む程の光量を持つ光が辺り全土を巻き込み、覆い尽くした。
「何これまぶしっ……!」
とても瞳を開いていられない状況に、鈴護は思わず腕で顔を隠す。
何時まで続くのかも解らない突然の発光現象。腕で瞳を守っていても入り込んでくる程の光量に視界が封じられ、周囲の状況が一切把握できなくなってしまう。
数分の後、やがて光も徐々に治まりを見せ、どうにか視界を確保できるようになってきた。
眩んだ瞳を瞬かせ、周囲の状況を確認する。カケラは依然鈴護達の前にそびえ立っていた。
だが、明らかに先程とは違う何かが自分達の目の前に現れている事に気が付く。
そうして『カケラ』の前には、何やらぼんやりと人影の様な何かが存在していた。
「あの人が、もしかして……?」
鈴護の視界に収まった、謎の人影の正体。果たしてあれが、件の『宇宙人』なのだろうか。
「カケラの、人」
少女と会合する為に現れた存在の姿を、未だ戻らぬ視覚を酷使して、何とか認識する。
「私達と同じ――人間? で、でも、あの姿は……」
その姿を視認した鈴護は驚きを隠せない様子で目を見開いた。宇宙人と言う位だから、蛸足や鈍い銀色の何かを想像していた鈴護は目の前に現れた存在が地球人と大差が無い事に驚く。
だが、それだけではない。それ以上に、その人物には特筆すべき要素が備わっていたのだ。
余りにもその姿が、彼女が良く知る人物と寸分違わず似通っていたのである。
「そんな。ふーちゃんが――もう一人?」
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