第四章 子とコドモ

4-1

 私の事は、貴方にしか理解できないと思っていました。

 でも、最近は少しだけ違います。


 ――おかあさん。


 母とは、どんな存在なのでしょうか。

 最近私はよくそんな事を考えています。

 私には、母と呼べる人物は存在しません。

 学習装置のデータベースでその言葉を見かける度に、私は何故か無性にその存在について深く知りたくなります。

 私には初めから存在しないモノ。私の存在意義の中ではきっと無駄にしかならない、その言葉の意味を何度も何度も調べました。

 しかし、いつも何も理解する事が出来ずに終わってしまう。

 端的な言葉としての意味だけならば、データベースにだって載っています。

 でも、私が知りたいのはきっとそういう事ではないのでしょう。

 カリキュラムの映像データにも存在しない、母と言う存在の参考映像。

 知りたくても知る事のできない、母と言う存在の意味。

 全てはきっと、私の前に訪れたあの女性の影響なのかもしれません。


 ――もしも、私に母がいるのならば。


 そんな思考を巡らせる切っ掛けとなった女性。

 私には理解できない、母と言う存在。

 最近少しだけ……本当に少しだけ、その意味が解った様な気がするのです。

 だから私はあの人への思いを、いつもの様に「描く」事で記録しておく事にします。

 貴方にも、このもどかしい気持ちと切なさを教える為に。


 約束の日は近いけれど、私は、あの人のことを忘れたくはないから。

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