2-5
地獄の用務員業務と言えども、休憩時間くらいはちゃんと用意されているらしい。謎の授業部屋清掃業務の後に、鈴護は端末からの指令で休息を命じられた。
朝から何も食物を摂取していない事を思い出し、端末のヘルプファイルを参照しつつ、昼食を摂る為に食堂へと足を向ける。
無駄に広大なスペースを持つ食堂に着いたのと同時、あの少女が食堂へと入って行くのを見かける。
そうだ。食事を通じてコミュニケーションを取ると言うのはどうだろうか。
これは中々良いアイディアなのではなかろうか、と鈴護は小さくガッツポーズ。
鈴護は食堂へ足を踏み入れると、少女が座る席の丁度向かい側となる席へ座り込んだ。
「同席しても、良いかな?」
鈴護が向かいに座っても、少女は意を留める事もなく顔を向ける事すらしなかった。
黙々と、機械的に食物を摂取している。
スティック状の、日本人なら一度はスーパーやコンビニの片隅で見かけるであろう、箱入り総合バランス栄養食と言う名の固形物を。
昼食と言うには余りにも寂しいその食事に、思わず席から立ち上がり、何か食事を作ってあげようかと考えたが、その隙にまた逃げられてしまっても困る。
取り敢えずは何でも良い。
とにかく何か話題を持ちかけてみよう。
コミュニケーションの基本はどちらか片方が歩み寄る事から始まるのだから。
「またさっきの授業、受けてたの? って、当たり前かあ。学校だものね」
――沈黙。
「毎日あの機械の中に座っているのが授業なんだよね。最近の授業って進んでるんだなあ」
再び沈黙。鈴護の無理をした明るい声だけが、大食堂に反響する。
「えっと。それ、美味しい?」
「味に、問題点は感じられません」
漸く答えが返ってきたかと思うと、何だか素っ気無い。
「わ、私も今度、食べてみようかなあ」
対する少女はやはり無言。そして、また最初に戻る。
(どうすれば良いの、これ。会話が全く、これっぽっちも弾まないよぉ……)
以降も何気ない会話を振って少女の反応を求めてみるが、状況は一向に変わらず、結局少女とまともに会話を行う事はできないのであった。
(こ、ここまで無口な子だとは)
取り敢えず何回か話しかけてみた事で、少しだけ解った事がある。
少女に何かの質問として語りかければ一応返答は返ってくるものの、それは、疑問文に解答するだけの義務的な物。
それ以外の普通の会話――コミュニケーションに発展する様な会話には一切反応しない。
こちらを見る事すらしないのだ。
質問にはすぐに答えてくれるのに、それ以外の会話のキャッチボールが成り立たない。
さて、一体どうしたものだろうか。
これではコミュニケーション以前の問題。そもそも会話が成り立たないのではスキンシップを取る事すらできない。
ここまで素っ気無くされてしまうと、もはや手の打ち様も無いと言うか、どうして良いのか解らなくなってしまう。
(何だか、悔しいな)
人と会話をすると言う事で、これだけ苦労する事になるとは。
無謀な突撃の先に待っていた事実が、鈴護を落ち込ませる要因となったのであった。
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