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その後、鈴護には新たな業務があたえられた。都合の良い事に、先程少女が授業を行っていた部屋の清掃である。
少女が『授業』と表現した件の光景が、どうしても頭から離れなかった。
これはチャンスとばかりに、鈴護は掃除の傍ら授業部屋の探索を行う。
「そう。これは掃除の一環デスカラ。決シテ邪ナ目的ガアルワケデハナイノデスヨ」
部屋の半分を占める大きな機械の他にも、室内は様々な用途不明品で溢れていた。
その大半は何に用いるのかも解らない機械ではあるが、部屋の隅には資料棚が存在しており、多数のファイルが収められている。
それ等を調べる事で、少女が何の為にあんな『授業』を行っていたのかを、調べる事ができるやもしれない。
「勝手に覗いたらマズイかな。だ、誰もいないよね?」
誰もって、そもそもここにはあの女の子しかいないじゃないかと、自分の発言に対してツッコミを一つ。
鈴護は資料棚の一つに近づくと、そこから適当に数冊を抜き取り、中身を参照し始める。
「ワァオ」
しかし困った事に、文章は全て英語で記されていたのである。
日本語以外の語学に疎い鈴護には、全く内容が理解できない代物であった。
「ジャパニーズ、プリーズ」
誰もいない室内に、虚しく木霊する鈴護の要求。
「ここ日本よね? 何だって資料が全部英語なのよ」
単語単位でならば理解できる物もいくらかは存在したが、それが文章となると話は別。
とりあえず知っている単語だけを目で追っていくが、それで内容を訳せるわけもなく。
「……英語なんてわからなくても、日本じゃ生きていけるし」
負け惜しみの様にぼやく鈴護であった。
眺めている中で、特に目についたのが「Contact」と言う単語であった。
他にも「Contactor」と言う言葉も見て取れる。
コンタクト――接触、だろうか。
ファイルに記されたタイトル、そして文章には、ほぼ必ずその単語が記されている事に気がつく。
更にコンタクトと書かれたファイル群を閲覧していると、「July」と言う単語も多く記載されていた。
ジュライは英語で『七月』を意味する言葉。それくらいであれば、鈴護でも理解できる。
「七月に、コンタクト。この場所で、誰かが何かと会ったりする予定でもあるのかな」
それにしては、同様のタイトルの資料が多過ぎるのが気になる。
資料棚からは少女や『授業』に関する情報は得られそうになく、他にも情報源になりそうなものは存在しそうにない。
「もういいや。全然わからないし」
情報収集を諦めた鈴護は、しぶしぶ業務を再開するのであった。
その後、部屋の清掃は苦労も無く終了する。
元々この施設内は、異様なまでに埃が少ないのである。
まるで、全区画に空気清浄機でも完備されているかの様に、空気中の埃、塵の類がほぼ存在しないのだ。
屋内にいると言うのに、外よりも空気が澄んでいそうな気さえする。
故に室内もほぼ埃が溜まる事も無く、清掃自体はモップで床の拭き掃除をする位で済んでしまった。
楽なのではあるが、この場において用務員の存在意義は果たしてあるのだろうかと疑問を感じずにはいられない。
モップを壁に立て掛けつつ、私物のケータイを取り出し時刻を眺めると、既に正午を回っていた。
「床に足がつくって、本当に素晴らしい事なのね……」
最初の地獄の様な業務を思い出し、大地と重力に感謝する鈴護。
そして、改めてこの『学校』について考える。
果たして、何の目的でこの様な施設を設立したのだろうか。
あの案内人の老人ならば何か知っていたのだろうが、聞き出そうにも連絡先すら教えられていない。
「本当にこの学校は、一体何を勉強するところなんだろう」
いくら考えても、全く答えは浮かびそうになかった。
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