幼女を愛する紳士

@f43n9qtu54

第1話

 幼女。それは神に愛された至高の存在である。

 そして統一歴1925年、帝国軍と共和国軍の対峙する戦場にも可憐な幼女が存在した。 

 帝国軍魔導師のターニャ・デグレチャフは武勲によって魔導少佐の地位と「白銀」の二つ名を得た幼女である。野戦指揮官としての能力に不足は無かった。だから帝国は彼女に地位と権限を与えたのである。

 白磁の様な肌にはまだニキビさえ出来ていない。まるで天使の様なターニャの率いる第203航空魔導大隊は紳士揃いだ。可愛い幼女を愛でる為なら泥水さえすする。幼女の罵倒はご褒美だ。そんな紳士達だ。

「デグレチャフ少佐。貴官の大隊は威力偵察だ。好きに暴れて良い」

 威力偵察。ある程度、敵をぶっ飛ばして反応を探る行動だ。

 北方戦線を経験したターニャにとって、ライン戦線の任務は別段、たいした事の無い物だった。何しろ新米士官として能力限界までこき使われた。その地獄に比べれば楽な方だった。

「承知しました。思う存分、暴れてご覧に入れます」

 金髪、碧眼の幼女と言う容姿とは裏腹に、その返事は力強い物だった。

「うむ」

 ターニャを野放しにした事に疑問を感じる者は居なかった。後に命令を出した司令部は混乱する事に成る。

 増援の歩兵は、ターニャら魔導師の形成した突破口の両翼を確保する。砲兵の火力支援もある。幼子を装って協力をお願いした結果、頼もしいお兄さん、お姉さんが彼女達の背中を守ってくれているのだ。

「大隊長殿、出撃準備完了致しました」

「わかった」

 ターニャは大隊から1個中隊抽出した。

 たかだか1個中隊。

 しかし魔導師1名は歩兵1個中隊に相当すると言われる。

 それが1個中隊、攻勢に転用される。オーバーキルは確定だった。

 大隊本部の壕を出たターニャの前に、参加する部下の紳士達が揃っていた。

 ターニャは無能を嫌う。帝国には無能を養う余裕すら無いと公言していた。

「行くぞ、諸君。共和国のフェラ豚どものケツを蹴飛ばしてやれ」

 後方の砲兵が突撃支援の砲撃を始めた。これから攻撃を始めると言う挨拶だ。

「前進、前へ!」

 砲撃が降り注ぐ敵陣めがけて魔導師達は、相互躍進で遮蔽物を利用しながら前進開始した。紳士達の先頭を進むのはターニャだ。指揮官陣頭などターニャにしてみれば非効率としか思えなかった。それでも部下の信頼を得て士気を高めるには指揮官先頭こそ必要だった。

 部下の意見は違う。幼女の臀部を視界に入れる幸せを味わいながら栄光の突撃に参加する。これに勝る喜びなど紳士達に存在しない。男はそう言う生き物なのだ!

「フフッヒ」笑い声を漏らす部下に訝しげな視線を向けるターニャだが、その視線だけでもご馳走だった。

 いつかターニャの鳴き声を耳にするかもしれない。その期待感だけで、糞不味い代用コーヒーを3杯お代わり出来た。正に紳士である。

(何だ?)

 ゾクッとして後ろを振り向いたターニャ。部下は続いている。問題は無いはずだが、なぜか体を舐められる様な悪寒を感じた。

(糞神の野郎か?)

 ターニャは神に呪われていると言えた。

 神を讃えよ。

 しかしターニャは神を呪っている。このとんでもない世界に非力な女児として産み落とされた原因だからだ。

 呪っているからこそ、生き延びる為に最良の選択肢を選ぼうと野戦指揮官として足掻き続けていた。それしか無かったからとも言えるが。

『最終弾着……今!』

 効力射が終わった。粉塵が舞う中、ターニャ達は敵第一線に肉薄した。地雷は掘り起こされ、鉄条網は吹き飛んでいる。空を飛ぶ魔導師に効果は薄いが、歩兵相手には十分な障害物と成る。

 敵が構築した砲兵と機関銃の火網は味方の歩兵1個中隊を軽く殲滅する事が出来る。確かに歩兵には脅威だ。しかし彼女達は魔導師だ。

 敵が頭を上げた瞬間が見えた。

(迂闊だ。馬鹿め)

 集束し放たれた魔法が敵兵の頭を粉砕する。

「一気に突破する」

 揺れるターニャの臀部に喚声をあげる紳士達。幼女を讃え、幼女の敵を駆逐すべく魔法を放って行く。ターニャは彼らを導く戦乙女だ。

 軍司令部からの命令は威力偵察。ターニャはそれを拡大解釈した。

 好きに暴れて良い=何をしても良い、と。

 ターニャの計画は単純だった。

 敵戦線を突破し、司令部を急襲する。

 可能であれば将来の為にも、敵の指導陣を抹殺しておく事すら考えていた。

 共和国国防次官兼陸軍次官のド・ルーゴ少将。

(名前からして明らかにド・ゴールだろう。生かして置けば帝国の敗北フラグに繋がる!)

 共和国の帝国に対する反攻の取り纏めを行うセンスを持つ者は限られている。それがド・ルーゴ、ターニャの明るい幸せ計画には邪魔な存在だった。

 敵将を討つか捕虜にしなければ未来が脅かされる。素敵な旦那様と可愛い子供、そんな未来は描いていないが平穏こそターニャの求める物だった。

 チュン、と跳弾の音が耳をかすめるがターニャを止める物では無い。敵に構わずターニャは飛行を続ける。

 そんな反応に部下も慣れた物だが、幼女を傷付け様とした事に憤りを感じていた。魔導師の優れた目と火力で罰当たりな敵に、裁きの鉄槌を振り下ろした。

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