第1章 その始まり 幼年学校編

第1章 1節

アリン共和国は大陸でも有数の大国である。

政治形態は中央集権式の議会制。

人口は凡そ1億5千万人。

だが何よりその特徴は、軍事国家であるという事である。

彼の国はARMSの元祖であり、例外を除くと周辺の都市国家に対し圧倒的な軍隊を持つ。


そしてその首都アリンフォート。

建築以来不落の城塞首都であり、大陸初のARMS運用ドクトリンの施行により高い攻撃性すらも獲得した、共和国の頭脳にして象徴、盾である。

人口は凡そ2000万人。



その都の高級住宅街のとある屋敷にて。

1人の老年の男が書斎のソファに腰掛け、眉間に皺を寄せながら1枚の手紙を見ていた。

送り主は彼の親友。

曰く。




前略 親愛なる我が親友へ


唐突且つ久々の手紙となるが、この手紙をお前が見ている頃には恐らく私は北の国境付近で死んでいる。

この手紙を持たせたのは私の義娘だ。

今年、数えで9歳になる。

義娘には戦死の知らせが来たら、この手紙を持って行く様に言付けてある。

少し前に出会って恐ろしく聡明だったので、出征直前に養子にしたんだ。

技術者になる為の学校に行きたいらしいが、先程も書いた通り私は恐らく死んでいる。

そこでだ。頼みがある。

彼女を幼年学校に入れてやって欲しい。

お前にはカードの貸しが嵩んでいるが、死人が取り立てるのもどうかと思うので生者である義娘を代理で送る。

義理堅い我が友ならば踏み倒しはしないと見込んでいる。


死後の世界が有ると言うのなら、先に行って隅々まで下見しておく。

ゆっくり生きてから来い。親友。


P.S.嫁さんと仲良くな。






男は手紙から顔を上げ、部屋の入り口の前に立つ幼い少女を見る。

一点を除いて全体的に白い。髪は白銀長髪、無表情で、肌は透き通り、着ている服は白いワンピースである。

故に尚の事、例外である朱い眼が目立つ。

バランスの悪い色彩ではある。

だが、妙に様になって見えるのだ。


日も傾いた時間帯、屋敷の門の前で門番と押し問答している所を

彼の妻が見つけて招き入れたのだ。

今の所は少しずつしか喋っていないが、親友が見込んだ少女である。

やはり、賢いのだろう。

少女は男に眼を向け、僅かながら首を傾げ、口を開く。


「義父は……何と……?」


数秒、男は目を逸らして思索を巡らせた。

妻にどう伝えるべきであろうか。

可愛らしいものに目が無い妻の事だ。

此処まで招き入れた事を考えると、彼女は最終的には賛成するだろう。

では自分は?

反対する意味も理由も無い。

故に答えは決まっている。


「君を幼年学校に入れてやってくれと。」


その言葉を聞き、白い少女は目を伏せた。

幼年学校に行きたい。

義父にそう言った事が確かにあった。

基本的に新技術とは戦争によって後押しされて産み出される。

故に軍事国家に於いて最も最新の技術を学び、触れられるのは技術工廠である。

軍事国家に転生した時には半ば絶望し、両親を知らない少女として育ち、人型機動兵器の存在を知り歓喜した。

孤児院から義父に引き取られた事もとても運が良かったのだろう。

義父は人柄が良い人だった。だから義父の訃報を受け取った後、即座に言い付けを守った。

運んだ手紙が遺言状だとは思わなかったが。

学校に行きたいと言った結果として義父が手回しをしてくれていた事を知り、

現金な話ながらも感謝の念が絶えない。

涙すら満足に出せない今の無表情では上手く表せないけれど。


だからこそ。


「エレナ=グリーシスです。

宜しく……お願いします。」


絶対に、この機会を無駄にはしない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る