こちら共和国軍技術工廠所属新技術実証試験独立中隊

山際タカネ

試験投稿 何時か何処かの戦場にて

プロローグのようなナニカ


鉄の兵士達が行軍する。


既に現住民が退避した市街においての戦端が開かれてから三週間。

二大国間に挟まれた山間の独立都市は、交易の要所としての役割を完全に失い、兵士達がその命と血でもって廃墟を赤く染めている。


人型機動兵器ARMSの発明により戦争が大きく形を変えてから凡そ五十余年。


元は工業用パワードスーツとして造られた高さ12m程のそれらは、予想を遥かに超えた戦闘能力を発揮し、瞬く間に戦場の主役となった。


しかし、兵器である以上は兵士が操るモノであり、戦死者数は年々増加し続けている。


この戦場でも、ARMSに乗った兵士達が既に数百人、その身を散らしている。


故に、この様な光景も珍しく無いのかも知れない。



「周辺警戒!今日の夕飯は美味いシチューだ。必ず生きて帰るぞ!」

周囲を警戒する灰色の量産機である'ヴァルカン'に回線を繋ぎ、深緑の対物装甲増設仕様の'ヴァルカン'に乗る三十代後半の男は命じる。

既に日が傾き黄昏時、哨戒任務の重要な時間帯の一つである。

彼自身、この歳まで生き残れているのは奇跡に近い。

対物装甲増設仕様とは即ち、急所であるコックピットへの一撃を耐えた上で猛烈な反撃を叩き込む仕様である。機動性確保の為にも、追撃で行われる二発目の事はそもそも考慮されていないのだ。

その様な機体に乗って彼は十年間戦い続けて来た。運の良さだけでは済まない腕の良さも有ったのだろう。


だが、始まりは唐突だった。

熱源センサーに反応が見られる、と同時に彼はフットペダルを一気に踏み込む。

それに反応し、跳躍、推進剤の噴射により落下速度の調整を手元のコンソールで行う。

刹那、ARMSが主に使う12cm径成形炸薬弾が機体の爪先を掠めた。


成形炸薬弾が利用されているのは、着弾さえすれば爆発し、12m程が一般的なARMSに対して致命的なダメージが見込まれるからである。

掠めた弾が味方が近くに居ない廃ビルに着弾、炸裂する。


ビルが爆風で崩されるのを背後に、男はCPへの予め用意しておいた文章を暗号電文として送信する。

『ワレ 敵ヲ発見セリ』

そのまま回線を繋いであった味方機にインカムのマイク越しに狙撃地点の割り出しを命じて、そのまま彼は永遠に意識を失った。

再度飛来した成形炸薬弾の改造品、

貫入炸薬弾に直接コックピットを焼かれて。



「命中。でも、縦の偏差が大きい。コリオリの所為?」

敵部隊から凡そ8km離れた自然公園、

眉間に皺を寄せながら呟く異質な女性が一人。

勿論ARMSのコックピットに乗ってはいるが、その左手は操縦桿を握るのでは無く膝に置かれた計算機を叩き続ける。

先程の結果を踏まえた計算の解をコンソールに入力し、敵部隊の近くの珍しく無事な高層ビルの主柱に向けて、トリガー。

弾道は先程よりも正確に伸び、狙った場所へと着弾を確認する。

「計算は合ってるから、、、

つまりは肩関節の対衝撃用アブソーバーの性能不足?」


狙撃の結果として敵部隊を文字通り煙に巻いた彼女は意気揚々と対レーダー用デコイを散布しながら撤退を開始する。

哨戒任務中の敵隊長機と思わしき機体の撃破を手土産に。



この物語は戦記であり英雄譚であるとも言える。だがしかし、美談にも悲劇にもなる事は無い。後の歴史家が語るに、『最も酷く惨めで泥臭く、栄華からは程遠くも確かにその時代を生き抜いた人々の物語』。

だが彼等は知らない。この物語の中心人物たる彼女の意識が、本来此の世に居る筈の無い混入物にしてイレギュラーである事。

そして、彼女に対する印象は九割九分九厘が誤り、特に勘違いの類いであり、その精神の本質は唯単なる人懐っこい無口な機械好きの男性である事。

最初は単なるボタンの掛け違えであった齟齬は、その未来を大きく歪ませて行く。


「(あ、曲がり角間違えた。)」

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