自称死神くんとライバルくん


「ごめんね、えっちゃんは昔から俺のフィアンセって決まってるんだ〜」


「そうでしたっけ?何かの間違いじゃないんですか?」


「えっちゃんは黙ってて」


しぃー、と人差し指を立てて黙れと合図をする目の前の男を見てから、彼の目の前にいる山本くんの方へ視線を向ける。案の定彼はあんぐりと大きく口を開いて、放心状態といったところだ。


「ほら、えっちゃんそんな奴は放っておいて俺と愛を育もう?」


ね?と優しげに笑うのは市川玲矢さん。近くのバーのバーテンダーをしているそう。行ったことはないけど。


「ハッ、僕の調べには市川さんは海堂さんのストーカーじゃないですか!そんな人を海堂さんのフィアンセだなんて認めませんよ!」


「君がそれを言うの?」


「海堂さんは黙っててくださいっ」


ストーカーにストーカーとは呼ばれたくないと思う。そんな私の意見など二人とも聞いてくれる様子はなく、二人で口喧嘩を始めてしまった。

ことの始まりは、まあ、いつも通り山本くんとお買い物をしてたんですよ。近くの安いスーパーが大安売りをしているっていうから、これは行かなきゃと思って。そしたら、私たちと同じ考えだったらしい市川さんとばったり出くわして、ストーカー二人が最悪な出会いを果たしたというわけです。私にとったらいい迷惑なんですが。


「それじゃあ、あんたはえっちゃんの何を知ってるの?スリーサイズは?体重は?身長は?好きな食べ物は!?」


「勿論知ってますよ!いつも見てましたからね!それじゃあ、市川さんこそ何を知ってるんですか?行動パターンや考え方、口癖知ってます!?」


「うっ、そこまでは流石の俺も…」


そんな張り合いしなくていいです。むしろなんで、私のスリーサイズなんかを知ってるんですか。ストーカー通り越して気持ち悪いですよ。周りの人たちもすごい目をしてます。ちなみに、スーパーの中で口喧嘩をしている二人です。


「それに、貴方の方は"さん"付けです。僕の方は"くん"付けです。明らかに僕の方が彼女との距離は近い!」


山本くんのその言葉がとどめだったのか、がっくしと肩を大げさに下に下げる市川さん。何が負けで勝ちなんですか。ツッコミを入れようとしたものの、二人の間に変な友情が芽生えてたことに気づいたので、私は山本くんの隣にあったカートを押して、大安売りをしている商品がある棚へと駆け足で向かった。一刻も早くあそこから立ち去りたかっただけです。


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自称死神くんと平凡OLちゃん 七妥李茶 @ENOKI01

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