自称死神くんと帰る


「ミルク1、砂糖5のカフェオレと、ベイクドチーズケーキをお持ち致しました!」


今日も山本くんは元気です。相変わらず私にストーカー行為してきます。流石ですね。


「海堂さん今日の夕飯はビーフシチューにしましょう」


「来ないでね」


「もう具材買って冷蔵庫に入れておきましたから」


「どうやって家に入ったの」


「僕と海堂さんの仲じゃあないですか」


どんな仲だ。合鍵を渡すまでの深い仲になったつもりはないよ。

藍色のカフェエプロンに、白いワイシャツと黒いズボン……すっきりとした短い焦げ茶色の髪、以下にも好青年って感じの山本くんは、その辺の女の子がメロメロになっちゃうような優しい笑顔を渡しに向ける。悪いけど、私はそんな笑顔にメロメロになんかならないからね。


「バイト、後十分で終わるまで待っててくださいね」


そういうと、手に持って居たお盆をテーブルの上に置いてカウンターの奥の方へ消えてしまった。……しまった、という表現だと恋している人みたいになってしまうな。そんなことを思いながら、冷たいカフェオレにささっているストローに口つけた。


「ねぇねぇ、武史くぅん」


「はい」


「今日ヒマぁ?それなら、アタシたちと遊ばない?」


スマートフォンをいじりながら、綺麗な女の人が山本くんに言い寄って居た。それを見て、彼は意外とモテているんだ、ということを知った。いつも見るのはバイトの姿か、変態なところだけだから。


「すみません、僕には心に決めている人がいるので」


にこり、と営業スマイルを浮かべて彼は彼女たちから離れた。思わず、こくっと喉を鳴らした。


「何よう〜」


ピチピチのギャルよりもこんなおばさんがいいの。いやいやいやいや、まだ私とは決まっていないから。自意識過剰過ぎるわ。


「待っててくれたんですね、海堂さん!!」


飼い主が帰ってきて喜んでいる犬のようにパタパタと大きな体を揺らしながら私に近づいてくる山本くん。私は結局彼のバイトが終わるのを待っていた。


「さて、僕たちの愛の巣へと帰りましょうか」


「愛の巣なんてあった?」


「そんな真顔で言わないでください!言うならもっと罵って!!」


きゃーっと一人で盛り上がっている山本くん。周りからの視線が痛いから早くこの場を立ち去りたい。ぐいぐいと服の袖を引っ張って、私の家に向かう。え、なんでかって?だって、彼の家は知らないんだもの。


「そういえば、海堂さん私のことがっちゃんって呼んでくれませんね」


「山本武史って名前教えてもらったから」


「私は死神なんですよ!!!がっちゃんって呼んでください」


「そろそろ警察呼ばれそうだからやめて」


また、海堂さんのところよ……といいたげに近所のおばさんたちに冷ややかな目で見られる。えぇ、そうですよ。海堂さんのところですよ。


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