自称死神くんと平凡OLちゃん
七妥李茶
自称死神くんと出会った
目の前ににやにやと笑う怪しげな男がいた。知り合いかって?初対面ですよ。コンビニの帰りに目の前に突然現れて、にやにやと笑ってる不審者さんです。さて、これは通報した方がいいのでしょうか?
「どうも、こんばんは。死神と申します。がっちゃん、と呼んでください」
「は?」
「がっちゃん、と呼んでください」
どうやら不審者さん以前の問題だ。頭いっちゃってる人でした。私はとりあえず深いふかあい、ため息を着くと自称死神さんの横を通り過ぎた。ここは無視だ、無視。
「待ってください、無視しないでください。私無視されると死んじゃうんです、さみしいと死神は死んでしまうんですよ」
いやいやいやいや、それはうさぎだろう。さみしいと死神は死ぬとか聞いたことないからね。初耳だから、それ。
自称死神さんは無視しながら歩いて行く私のふくらはぎあたりにひっついて、わんわんと喚いている。うん、いい近所迷惑だ。
「ぎゃふっ」
ヒールの踵で腕を踏みつけると自称死神さんは、ぱたりとその場に倒れこんだ。それからぷるぷると震えて動かなかった。不審者さんとはいえ、やりすぎたかな?平気ですか、と声をかけようとした私だったが次の彼の言葉でまた、真顔になった。
「ナイスです。もっとくれても構いませんよ」
グッドポーズをするあたり、この自称死神さんは変質者だそうです。
「…というわけなんです」
「いや、どういうわけ」
よくある小説や漫画のように略されても困る、というのが私の心境だ。目の前にいる自称死神さんの腕にはくっきりと私のヒールの踵で踏んだ跡が残っている。いくらなんでもやりすぎだろうってぐらいの紅葉も左頬にある。
「いやあ、なんかすみません。いいビンタもらった挙句手当までしてもらっちゃって」
どこを申し訳ないと思ってるの?それ、手当てしてもらった方?え?ちょ、えぇ?
「というよりか、貴方は誰?」
「だから、死神のがっちゃんです」
「本名だよ、本名」
「山本武史です……あっ」
「山本くんね」
「いや、だから、その」
自分から墓穴を掘った自称死神の山本武史くんは、おどおどとした様子で私をみる。
「それで、なんで私の目の前に急に現れたの?」
「いや、海堂さんをストーカーしてたんですけど、今日一人でしかもヒール履いてたので、ここはもう現れて殴られるしかない!と思いまして…」
なるほど……で済むわけないじゃない!え、何私のストーカーだったの?あ、ちなみに私は海堂笑子。なんで笑う子なんだよって昔からよく母親に愚痴ってたっけ……そんなことはとりあえず置いといて。山本くんは、やっぱり危ない人でした。
「海堂さんの何処に惚れたかと言うと、アレですね。いいパンチ力に惚れました」
グッドポーズをもう一度してくるので、とりあえず頭の頂点にチョップを食らわせた。山本くんはいい笑顔でご馳走様です!と喜ぶ。うん、そこ喜ぶところじゃあない。
「というか、会ったことあったっけ?」
「ありますよ!!ほら、駅のホーム近くのカフェでよくお茶しているでしょう?ミルク1、砂糖5のカフェオレと、ベイクドチーズケーキを金曜日の午後三時五十三分ぐらいに!!」
「なんでそんなに細かい時間まで知ってるの」
「私は海堂さんのストーカーですから!!!」
某漫画であるような、ドジャジャーンと音がつきそうな勢いで胸を張った山本くん。うーん、警察にお届けした方がいい気がしてきたな。
「あ、話戻しますね。私あそこでバイトしてるんです。いつも注文受けているでしょう?」
そう言われて、注文を受けてくれる店員さんの顔を思い出す。ぼやあ、としか思い出せないのが辛い。もう、年かな?うん、年だね。
「それが私なんです!!!いつも見てましたから!!」
モノホンのストーカーでした。
「ちなみに、キャリーケース持ってるんで同棲生活から始めましょう!」
「そこはお友達から始めましょうの間違いじゃないかな」
この日を境に山本くんは影からコソコソ見てくるんじゃあなくて、ハァハァとまとわりついてくるようになりました。
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