第4話

21時過ぎの駅前はまだ人がまばらにいたが、住宅街ともなると少し人が少なくなる。

俺の住む安いアパートまで少しの道のりを尚也とポツポツと歩く。その時間がかけがえのないもののように、大袈裟なんだけど感じて笑みがこぼれる。


「バイト、楽しそうじゃん」

「ん〜なんとかね。同じバイトの人も優しくて、楽しいよ」

「…なんか寂しい」

「え?」


今なんて…尚也がそんなことを言うだなんて…ちょっとびっくりした。


「尚也がそんなこと言うなんて…意外」

「いや、めっちゃ寂しいよ。もうバイトして結構経つじゃん…言ってくれなかったことも、俺以外とあんな楽しそうにしてるのみたら…なんか寂しいなって」


う…言わなかったことに関しては…あえて言ってなかったから、なんとも言えない。だってまさかこんな反応を尚也がするなんて思ってなかったし…


「言わなかったのは、謝る…けどさ、働いてる姿ってやっぱ照れ臭いじゃん?いくら尚也が親友でもさ」

「親友…」

「うん」


尚也は俺の親友、という発言にこちらをキラキラした目で見つめてきた。うわ、なにその可愛い顔…くそ…惚れた弱みだよ、これ…

俺が親友っていって、そんなに嬉しいのかな?だとしたら、俺も嬉しい。

もっとも、俺は親友以上の感情をお前には持ってしまってるんだけど。そのことはいくら尚也でも言えない。


「てかさ、岬って女の子と喋れるんだ」

ぼそりと、控えめに言ったのかもしれない尚也の一言は、俺の耳にしかと届いた。届いてしまった。


「し、失礼な!俺だってな、女の子とおしゃべりくらいできるわ!」

そりゃあ尚也と比べたら…経験もないし、しどろもどろにはなるけど。

「ふーん…てか、あんな感じの子が好みなの」

「いや、そういう目では見てないから!俺はもっとおとなしくておっとりした子が…ってなに言わせるんだよ!」

「ふはは、知ってるよ、あとメガネで天然な巨乳、だろ?」

「う、うるさいな!」


尚也がやたらと楓ちゃんとのことをいじってくるから、俺もヤケになってぺらぺらと饒舌になった。いつしか俺の好みの子を尚也に聞かれたとき、尚也が好みです、だなんて言えるはずもないから、適当な特徴を言ったのだ。それを尚也は覚えていたらしい…まあ尚也から遠い特徴を言っただけ、なんだけど。

というか…

「尚也、やけに楓ちゃんのこと、気にしてない?あれ、もしかして…」

「岬が考えてること、全然的外れだから」

「えー!そうなのか?というか、お前の好みの子ってあんま聞いたことないよな」

そういえば、尚也の好みの子ってどんな子なんだろ。尚也ならどんな子でも本気になったら落とせそうだけどなー。

「聞いても面白くねえよ、そんなもん」

「えー聞きたい!」

「え…そんなに、俺の好きなタイプ、気になるの」

「もちろんじゃん!」

対象は女の子だろうから、俺は聞いたところで参考にもできないんだけどなぁ。でも、あんまり尚也のそういう話って聞かないからな。純粋に好きな人のことは、どんなことでも知りたい。

まじまじと少しだけ背の高い尚也を見つめると、なぜか尚也はごくりと喉を鳴らした。

「お、俺は…少し童顔で、」

「うん、」

「ちょっと鈍感で天然なんだけど、でも真面目で優しくて、」

「うんうん、」

「一生懸命なとこが可愛くて、少し内気で恥ずかしがり屋で、歌が好きだけどちょっと音痴なとこがまた可愛い、笑顔の素敵な子が、好きかな…」

尚也はつらつらと照れながらその特徴をあげていった。可愛いドジっ子、みたいな?

「ふーん…?なんだそれ、マニアックだな?そんな子…いるのか?」

「ああ…」

尚也は俺の反応をみて、ややテンションが下がったようだった。まあ、そんないい反応はしてやれなかったからなぁ。少なくとも俺には当てはまらないからなあ。

「彼女できたらいいよな〜」

「おれは岬がいるから彼女なんていらないよ」

え、お前なに言っちゃってるの。好みの子のタイプをあげたそばから…若干発言に矛盾がある親友の横顔をみて、首をかしげた。

でも、俺がいれば楽しいって言ってくれてるのは素直に嬉しくて、俺は尚也に笑いかけた。

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