第3話

本当のところをいうと、昨日の今日で来てくれたこと、言葉では言い表せないほどにすごく嬉しくてたまらなかったんだ。

だって好きな人が俺に会いに来てくれたって事実だけでたまらないだろ?

思考が乙女だってことは、この際突っ込まないでいてほしい。仕方ないんだ、俺は恋をしているんだから。

仕事中もやたらと空き時間があれば楓ちゃんに尚也のことを聞かれた。当たり障りないこと言うつもりが、なぜか俺はこんなに尚也のことを知ってるんだということが楽しくなってきたのか、客がいない時にはかなり話してしまったかもしれない。

バイト歴1ヶ月にして一番話したかも。しかも自分の話題ではなく尚也の話題ってのがさすが俺って感じだけど。

楓ちゃんは俺のまとまりのない尚也に関する話を相槌を打ちつつ笑顔で聞いてくれた。

「あのさ、楓ちゃん、率直な疑問なんだけど」

「はい?なんですか」

「この話、面白い…?」

人の親友の話とか、そんなに楽しいものだろうか。まあその当該人物がイケメンであるから興味も出るのだろうか。

「面白いですよ!榎本さんがこんなに楽しそうに話すの初めてみたので!」

「え、そんなに俺楽しそう…?」

ばれていたのか…そうやって面と向かって言われると恥ずかしい。しかも俺今までそんなにバイト中楽しくなさそうだったのかよ。まあそんなテンションあげて話したことは…ないか。

「榎本さんが尚也さんのこと、大好きなのがすごい伝わってきて楽しいです」

「ちょ、待って!だいすき、って」

「? 違うんですか」


女子高生の爆弾発言に俺は声が裏返ってしまった。雑誌で立ち読みしていた男子高校生が思わず振り返った。ごめん突然大声だして…、でもお前も立ち読みいつまでもしてるなよ!

いやいや、そんなツッコミはどうでもいい。

「楓ちゃん、尚也はただの親友で友達としてはもちろん好きだけど、大好きってのは…」

「あら、照れなくていいですよ!恋愛の形は人それぞれですから」

「楓ちゃん?全然わかってないよね?」


楓ちゃんに再度弁解を試みるも、タイミング悪くレジに人が来たのでそれ以降また話を蒸し返すのも変な感じになるので、結局退勤まで話はできなかった。


「楓ちゃん、尚也のことは…」

「大丈夫、尚也さんには内緒にきますから〜!応援してます!」

「ええ〜?だから違うんだって…」


ばれたくないのに…てかどこでばれた、んだ?女の勘、か?


退勤で楓ちゃんと別れると、店の前に渦中の人物が待っていた。


「岬、お疲れ」

「…うん」


さっき楓ちゃんと話したことが反芻されて、なぜかいつもより尚也の顔がまじまじと見れないなあ、とまたも乙女的思考になってしまう自分にため息をついた。

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