第20話 見えてきた出口
『みんな、やったよ!!』
CMO社の佐藤からFacebookのグループページに投稿があった。
Aチームの5度に亘る交渉の結果、DMリサーチ社が神成市再生プロジェクトへの参画に合意したというのだ。決め手はインターネット大手CMOとDMリサーチとの急接近にあった。神成市再開発プロジェクトへの参画を決めたCMO社のCEO藤江からDMリサーチの倉重社長に対し、神成市再開発プロジェクトに留まらない包括的な業務提携の提案があり、事態は急展開した。佐藤らによる過去4度の交渉で担当レベルの了承は既に得られていたが、藤江の後押しで一気に道がひらける形となった。
一方、『みんなの農園』の整備や営農指導員の指導等は神成市観光振興課、農政課の全面的な協力により着実に進んでいた。また、電報堂によるプロモート戦略は宮田とLPSI卒業生の上田が社内に根回しをして、こちらも順調な展開を見せていた。
Bチームの廃校活用テレワーク事業も順調に滑り出した。増田市長のトップダウンで廃校リノベーションが決まり、その活用方策としてのテレワーク試行も多くの市民の賛同を得た。
リノベーションのデザインについては、スーパーゼネコン石清水建設から参画している菅野の伝手で、国際的にも有名な建築家の隈田研一に相談する機会を得た。すると、新聞等のメディアで神成市再開発に注目していたという隈田研一の側から、設計事務所のスタッフをアドバイザーとして数名付けさせてほしいという提案がメンバーに対してなされた。思わぬ事態の展開から廃校リノベーションは一大プロジェクトとして加速的に進展していくこととなった。
また、神成市産業振興課長の肝煎りでテレワーク試行希望者の公募も始まった。受付からあっという間に10室の枠が埋まり、予約待ちの活況を呈する状況となった。この結果は湯浅と宮田が事前に行っていたWebアンケートの結果を裏付ける形となった。
Cチームの遠隔医療については帝都大学医学部と神成市健康福祉課、市立病院との間で協定が結ばれ、試行的に進めていくという合意が得られた。メンバーが着目していた帝都大学とRMソリューション社による共同開発の「リモートメディカル」の採用については、帝都大学医学部附属病院医療情報部とCチームメンバーがRMソリューション社と交渉し、遠隔治療の先駆的モデル自治体ということで同社の全面的なバックアップを得られることとなった。
要所要所で交渉、打ち合わせ等に帯同していた山崎であったが、1月下旬の決起集会以来火が付いたメンバーの活躍ぶりに目を細めていた。ここまで順調に、というか、想像を上回る進捗にはさしもの山崎も舌を巻く他なかった。メンバー15名全員に対して誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「上ちゃん、俺さぁ猛烈に感動しちゃってるよ」
「俺もだよ、アイツら15年前の俺達が恥ずかしくなるくらい凄すぎねぇか」
電報堂本社ビルの応接室で”LPSI2016”立ち上げの下打合せをして以来、久々に二人きりで会った山崎と上田は築地にある寿司屋のカウンターにいた。二人ともすっかり落ち着いた表情で寿司をつまみながら語らっていた。
「俺さぁ、いつからだったかな、アイツらのこと『最強の15人』って勝手に名付けてたんだけど本当に最強だな、アイツら」
「でもさ、その15人の手綱をきっちり締めたのは悔しいけどお前だからな。ザキ、よくやったよ、本当に」
「ありがとう、でもまだ始まったばかりなんだよな。道筋はほぼ描けたけど、本当にすべてが大過なく実現するかどうか」
「そこはよ、これからのアイツらの頑張り次第だよ。いずれこのプロジェクトはアイツらの元を手離れする。そのタイミングをアイツらもそうだし、神成市のほうもきちんと見極めることだな」
上田が言うとおり事業主体としてはほぼ出揃った感じだ。ここから如何に神成市や関係企業・大学にハンズオンしていくのか、彼らの社会人生活において初めての経験が今始まっている。
「上ちゃん、つくづく思うんだけど”LPSI”ってすげぇな」
「あぁ、何が人をここまで熱狂させるのかね。いいトシこいて、お前も俺も随分手を尽してきたもんなぁ……」
二人はすっかり貫録のついたお互いの姿を見合わせた。と同時に15年前のまだまだヒヨッコだった自分達も思い返していた。
「当時の俺達に『神成市再生プロジェクト』やれたかな?」
上田は満面の笑顔でこう返した。
「認めたくはないけどできなかったんじゃないか? でも立場は違えど今やれてるんだから、俺達も自信持とうぜ。何よりお前が一番頑張ってきたんじゃないか」
「そうだな、そうだよな」
山崎は窓の外を眺めた。季節は変わり、道行く人達が羽織るコートも冬物から春物に変わりつつあった。一足早く訪れた春の嵐が東京から50kmほど離れた神成に雷鳴を轟かせるのを心の中で感じる。それは神成が自律した都市へと再生する号令なのかもしれない。
気付けば、”LPSI2016”クロージングセッションの最終報告会まであと10日を切っていた。早く、一日でも早く、「最強の15人」を労ってやりたい。山崎の思いはもはやその一点だった。
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