寄り道2
こーちゃんは、なんでもできちゃうすごい男の子なのだ。
徒競走なんかいつも1番だし、サッカーもできる。
わたしの嫌いな勉強だってさらっとこなしちゃって。
さらには、教えるのもうまいときた。
今はこーちゃんと夏休みの宿題をやっている。
「…こーちゃんにできないことなんてないよね〜…」
あ、声に出てた。
ミンミンとセミの鳴き声がうるさい、そんな夏の1日、そしていつものわたしたち。
「そーかな、さっちゃんができなさすぎるだけじゃない?」
「そんなことないもんっ!さちはふつーだもん!」
ついほおを膨らませてしまう。この前もこーちゃんに子どもだなぁってからかわれたのだけど。
「それに、この前のテスト、先生にほめられてたのこーちゃんだけじゃん!それにそれに体育でだって…!」
あれ、
「…どうしたの?」
こーちゃんを見て気づく。
なんだか暗い顔してる。
「ううん、なんでもないよ。」
不満だ。なんか今かくした。
こーちゃんはすぐに何かかくしたがる。
「なになに、さちに言えないことがあるの〜」
こうなったら頭ぐりぐり攻撃してやる。
「ちょっ、なに、いたいいたい、なんかいたい!こらっ!」
ついっと顔を上げてじっと見つめる。
「1人で抱え込んじゃだめだよ?」
わたしは知ってる。1人のつらさを。
お父さんが死んじゃって、
お母さんもいつもお仕事で、
家にはいつもわたしひとりだから。
すこし、こーちゃんの目がうるっとした気がした。そっぽを向いちゃって見えなくなったけれど。
「…最近つかれちゃったんだ。何でもできるね、とか言われて、おとうさんもおかあさんも先生もみんなに期待されてるみたいでさ…ぼくがぼくじゃないみたいになっちゃう。」
小さいけど苦しげな声。
何かむずかしいこと考えてる。
「そうだよね、こーちゃん、完ぺきじゃないもんね。」
知ってるもん。
こーちゃんが意外と泣き虫なこと、トマトが嫌いなこと、おばけを信じてること、怒ると耳が真っ赤になること…
「別にいいじゃん、期待にこたえられなくても。その時はさちがそばに行って笑ってあげる。」
こーちゃんの味方だもん、とわたしはにこっと笑ってやる。
なぜか、こーちゃんはびっくりした顔。
それがほっとした顔にかわる。
「さっちゃんはいいね。いつものぼくでいられるよ。」
いつしか外は夕闇に包まれ、カエルたちの大合唱だ。
そろそろ、おうちに帰らなきゃ。
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