第2歩

次の日の朝は、飛行機雲予報の通り、雨だった。

しとしとと柔らかな雨が大地に降り注ぎ、恵みをもたらす。



カーテンを開けると窓の外では庭に植わったハナミズキがピンク色の花を広げ、水をはじいている。

目を凝らすと花の中に一つだけ蕾のものがある。

一つだけポツンと孤立しているようでなんだか悲しげだ。


時計を見ると6:00を指している。階下に降り、朝ごはんの支度をする。

今日は珍しく早く目が覚めたのでホットケーキでも作ることにしよう。

ふっくらと柔らかいパン生地にバターの欠片を載せて。メープルシロップはたっぷり。

あぁ、お腹すいた。

香ばしい匂いを漂わせれば眠りこけている家族も起きるかもしれない。


と言ってもうちは母と私の2人家族。

父は私が小5のとき帰国時の飛行機事故で他界した。

母はその身一つで私を養ってくれていて日々忙しく、時には帰ってこない日さえある。


「あ、お母さん、おはよう。」

母がボサボサの髪のまま降りてきた。朝風呂にでも入るつもりのようだ。


「朝ごはん、作っておこうか?」

「あぁ〜もう、今話しかけないで。昨日のお酒がまだ抜けてないの。ガンガンするの。」

つっけんどんに返される。

いつもこんな感じだ。

1日に一度でも会えたらいい方で、会えたとしても夜仕事の母は疲れていていらいらとしていている。


いたたまれない気持ちになりつつ出かける準備をする。

「ちょっと出かけてきます。」

傘立てから赤いお気に入りの傘を取り出しボッと開ける。

今日は土曜日だ。

学校もなくて特にすることはないけれど、家にいるのは少し息苦しい。


隣の孝の家のドアの前に立つ。

けれども、ドアベルを鳴らそうとした手を止めた。

幼い頃は迷わずに押し開けていた目の前のドアも今となっては大きな壁だ。



諦めて近所を歩くことにする。

幼い頃から歩き慣れたこの散歩ルートも雨の日は雨の日で何かしんとして、趣がある。いつもよりどこか憂いを帯びていてそっけない。


散歩道の半ばにある神社の前までやってきた。

この神社にはなんでも学問の神様がいらっしゃるそうで私も毎年正月に訪れている。

大きな杉があるのが記憶に強く残ってる。


孝ともよくここで遊んだっけ…。


記憶がよみがえる。



目の前が、白く、光った。







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