記録2 再会、彼はガードマン
麗子はサブと言う男に質問した。
「お願い教えて、ここはどこなの!?サブちゃん、ここで何しているの?」
しかし、彼は寝ぼけているので、事態をまだ把握出来ていない。
「好きだった文月さんに会えるのは嬉しいけど、デートする夢なら、映画館とかお洒落なカフェにして欲しいな。それか、南国のリゾートとか…」
「もう、目を覚ましてよ」
麗子は、右手できつく彼の右頬をぶった。
「イッテー!!」
先ほどと同じセリフが辺りにこだまする。
サブと呼んでいるこの男、フルネームは坂三郎と言う麗子の幼馴染で、小学校の頃は家族を交えて、町内会の旅行やレクリエーションなどに参加したりしていた。龍行と芽衣子も彼や彼の両親の事は知っている。
なぜなら…
(麗子のクラスで勉強もスポーツも赤点ばかりで、人とは違うものにすぐ興味を抱いて没頭し、妙な知識を知りすぎているかなりの変わり者の子だろう)
で、)
(そうそう、すぐに気に入らないことがあれば怒ったり、ひねくれる短気な子でいたずらやケンカをどこにいってもやらかす問題児だった)
(でも、何だかな…)
(以外と息ぴったりだから、驚き!!)
娘とサブのやり取りを見ていて、夫婦漫才でも見ているかのように見えた。
「あれ、痛いって事は、現実の世界?」
彼女のきついビンタが効いたのか、正気になったサブは改めて、麗子を見つめて言った。
「ええ、これは現実?じゃ、夢でも幻でもなく本当に文月さんなの!?」
「そうよ。私だけじゃないわ。両親もいるよ!!」
マジっかとサブは、麗子の後ろにいる両親に視線を送る。
彼は、余計に混乱したが、二人に対して直立不動の姿勢を取り、十五度の礼をして挨拶した。
「おじさん、おばさん、御無沙汰しております。この様な姿で失礼します」
すると龍行と芽衣子も、返礼をして彼に尋ねた。
「ご丁寧にありがとう!!」
「サブちゃん、私たちも不躾で失礼するけど、麗子と一緒の事を言うわ。ここはどこなの!?」
「僕の部屋ですけど、倉庫の二階にある離れみたいなもんですが…」
その答えに、麗子たちは落胆した。
そう、彼も自分たちと同じようにこの異世界に迷い込んだ迷子のようだ。
「僕、間違った事言いましたか?」
四人は、一旦腰を下ろして、落ち着いて事態を冷静に整理する事とした。
麗子たちは、家族旅行に向かう途中に、空港までの近道をしようと山道にあるトンネルに入り、トンネルを抜けたとたんに嵐に遭いUターンしようと戻ったら、奥は進めなくなっていた。
サブの意見はこうだ。
彼は最初に言ったように昨夜遅くまで夜勤をしていて、自宅の部屋で寝ていたと言うのだ。
そして、気が付いたら、この事態に巻き込まれていたというのだ。
「そんな、空想小説や漫画みたいな事が本当にあるなんて信じられない!!だけど、これが現実なら受け入れないとな」
「サブちゃんは、夜勤明けでお休みする時、おうちの様子で変わった事は何かなかった!?例えば、休む前に何か違和感を感じたとか…?」
麗子の問いに、サブは何かを思い出したように彼女に伝える。
「とくになかったね・・・・・」
「そう・・・・」
「これは、嵐が収まるのを確認したら、少し、私らが見た森や沼の奥に行って、ここがどこか調べる必要がありそうだな」
けれど、芽衣子は反対した。
「あなた、だめよ。あんな深そうな森、もし、いきなり虎や狼みたいな猛獣が出てきたらどうするの?あなたは、私たち家族の大黒柱なのよ」
「芽衣子、それもそうだけど、ここにいても帰ることもできないし、どうしようもないしな」
夫の身を案じる芽衣子、不可解な出来事ばかりが起こるので、不安になっているのだ。
「パパ、私もママの意見に賛成だわ。もし、行くなら、みんなで三人で行きましょうよ」
娘の意見に、龍行はあっけにとられた。
「馬鹿を言いなさい。お前たちにそんな危険なことを手伝わせるなんて・・・ここは私が見てきたほうが・・」
龍行が言おうとする前に、麗子と芽衣子は龍行に強気になって言う。
「あなた、私たちいつも一緒でしょ」
「パパ、家族はどんなに離れても一緒だって、私が子供の時から言ってきたじゃない!!私、パパの考えや思いは大好きよ。だから、お願い」
妻と娘の強い思いを知った龍行は、感動した。
こんな異世界でも家族の思いがひとつだと言う事が知れて、自分の今まで作ってきた思いが込み上げてきた。
「よし、それじゃ、嵐が収まったら、すぐに出発しよう。急いで用意して!!」
芽衣子と麗子は、「はい」と揃って返事をした。
すると、横で見ていたサブは、ぱちぱちと手を叩いて拍手を送る。
「素晴らしい家族愛ですね!!僕感動しちゃいました。文月さんたち、僕も手伝いますよ」
「サブちゃん」
「三郎君」
「だって、ここでもう一度寝て、目覚めたら、元に戻っているなんて都合のいい展開はなさそうだし…お供しますよ」
サブは、三人に協力してくれるみたいだ。
「三郎君…」
「サブちゃん、でも、私たちがバカンスに行けなくなってしまったのと同じで、向かう先は楽園ではないわ。謎の多い世界よ!!」
サブは、落ち着いた顔をして、麗子に返す。
「旅は道連れ世は情けだよ」
不思議な雰囲気がした。なぜなら、かては問題児で周りから嫌われていた少年ではなく、どこか下町の粋な青年の笑顔があったからだ。
「麗子でいいわ」
「私も芽衣子でいいわ」
「龍行でいいよ」
「はは、それなら、みなさんの名前にさん付けで呼びますよ。その方が僕的にはしっくりと来るので、では、着替えて準備します」
サブは、近くに置いてある服に手をかけた。
麗子と芽衣子がいるので、クローゼットを更衣室代わりにするサブ。
その間、電気が停まっているので、麗子たちは車の中に積み込まれている懐中電灯を照らして、サブの部屋を少しだけ見た。
(サブちゃんって、昔から変わっている子だったけど、まるで、そのまま大人になったような部屋ね)
二十代の独身男の部屋なら、漫画やドラマなどのシーンでは、だいたいはお菓子やらお弁当の食べた空箱や袋、ビールやらジュースの空き缶や空き瓶などが散らかり、埃まみれでアイドルの水着のポスターなどが飾られた部屋が多いみたいなイメージがあったが、サブの部屋はむしろ片付けられて本や雑貨なども綺麗に並べられている。
アイドルのポスターではないが、水着イラストの女の子たちが描かれたカレンダーが並んでいる。
他にも、本棚の上に流行りのアイドルグループの立体ポスターと先に述べたヴォカロのレイコの妹的存在の鈴音ミカが歌っているのをモチーフにしたフィギアが
並べられていた。
「まあ、今どき男子って、こんなのが好きな子が多いって聞くけど、サブちゃんもその一人なのね」
職場の高校でも、男子生徒や男性教師たちでも三郎と同じようなものが好きな人も多いので、芽衣子には多少の理解がある。その中でもひとつだけ目立つものがあった。
「え、ねえ、暗くてわからなかったけど、これって、刀・・・・?」
「本当だ。しかも、太刀に小太刀と揃って飾ってあるが、本物なのか・・・」
本棚の上に、武家屋敷の床の間のように日本刀が掛け台に掛けて飾られていた。その隣には五月人形のように鎧兜が飾られ、その後ろの壁には紅い生地に装飾が施された中国風の掛け軸が飾ってある。
今風なのか古風なのかわからなくなる。
「サブちゃん、歴史物とか伝説物が好きなのは、昔からだったけど、今でも変わらず好きなのね・・・」
すると、クローゼットからサブが着替えて出てきた。
「お待たせしました」
サブの着ている服装に、三人は驚いた。
「サブちゃん、何で制服・・・?」
「昔のお巡りさんみたいな制服だけど」
彼は、灰色の生地にポケットやら警笛みたいなものが装着されたドラマや映画に出てくる古い時代の警察官や軍服みたいな制服で現れた。
「まさか、軍服・・・?サバゲでも趣味でしているの・・・?」
龍行の問にサブは、笑顔で返答した。
「あ、言い忘れてました。僕、工事現場とかでダンプカーやブルドーザーとか交通誘導をやっているんです」
そお、サブの仕事は麗子たちのデスクワークの仕事とまったく違う。現場で働くガードマンだった。
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