第2話 #02
神が人を造った。
《原典》にさかのぼればそう記載されているに違いない。
神話とは神々の物語であり、そこに人が立ち入る余地はない。
だからこそ、神や神話は人々の信仰の対象であった。
しかし、現代において、神と神話は同義ではない。
人が神を顕現化し、行使するようになったからだ。
あるいは、人が行使する神による物語もまた、神話なのかもしれない。
では、神話とはもはやなんなのだろうか。
五代ツカサは、彼女を前に考えていた。
ツカサの隣に立つ女性もまた、広義の意味での神である。
八幡学園都市やI2COなどの神醒術組織と大きく違うことといえば、神々の伝承により受け継がれてきた神話によるものではなく、人の娯楽によって生み出された神話によるもの、ということだろう。
《原典》から派生しない、すなわち人が創りし神話。
彼女は、その神話の神である。
それはまがい物の神かもしれない。
それでも、彼女はツカサによって行使され、魂が共鳴する存在である。
それはやはり、“神”と定義するにふさわしい。
しかして、自分が行使する神との出来事は神話なのか、と考えもしていた。
ならば問おう。貴様は絶対なる神や否か。
問いに彼女は答える。
「私は確かに神かもしれない。いや、あなたの言う神に相違ない」
彼女は続ける。
「さりとて、私は人に造られし神。であるならば、人こそ私の神であるともいえる」
――ならば。
彼女はツカサに正対し、その瞳を直視して告白する。
「私も、私の神を、行使しよう」
――そうだ。
彼女は自らが人に行使されるべき神にして、自身の神として人を行使する者。
これもまた“規格外の奇跡”に他ならない。
人が神を行使する。
これはどこの神醒術組織でも当たり前のことだ。
では神が人を、神にとっての神として行使する。
これはどこの神醒術組織をみてもあり得ないことだ。
だが実際に存在しているのもまた事実。
ならば認めざるを得ないだろう。
神と人の関係は新しいフェーズに入ったということを。
ツカサは歓喜していた。
漆黒の男にも、両親にも、そしてリグ・ヴェータの女にもなしえなかった新たなる一歩を自らが踏み出しているということに。
「私はあなたの神にして、あなたは私の神でもある。五代ツカサ、あなたこの現実を受け止めることはできて?」
「是非も無し」
――彼女は、彼女もまた「神話」のために闘う。
五代ツカサ 雪のような灰 @shikikaze
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