五代ツカサ 雪のような灰

@shikikaze

第1話 #01

――14年前。


 アメリカ北東部に位置する小さな州、その小さな街に「ズューネの夜」を引き起こした漆黒の男がいた。

 男の目的は逃走。もっとも、その男が逃走していることを知っている誰もが、その男を捕獲することはできないことを知ってはいた。


 この街の大学で教鞭を執るツカサの父と母は、息子と妻の友人でリグ・ヴェータの有力者である女性の4人で食事をしているところをこの男に殺された。

 殺された理由は特にないだろう。もはやこの男に理由や常識といったものはない。ただ事実として、死がそこにあるだけだ。


 同席していたツカサは、両親だった“もの”の隣で涙もなく訪ねた。

「なんでたすけてくれなかったの?」


彼女は言った。

「リグ・ヴェータはsalomoの内部で起こっていることには干渉しない。でも、君にはちょっと話そうかな……」


ツカサは知った。

両親がsalomoと呼ばれる神醒術組織に所属していたことを。

その両親に人為的に神醒術士として覚醒する何らかの処置を受けていたことを。

そして、漆黒の男のこと。


足りなかったパズルのピースが埋まっていくようだった。



――現代。


すべての神話は1つの《原典》から分派した。


そしてできあがった神話を元に、神醒術組織は創り上げられた。


日本神話は八幡学園都市を。

ギリシャ・ローマ神話はI2COを。

インド神話はリグ・ヴェータを。

北欧神話はミズガルズを。


ではsalomoは?

salomoに神話はあっただろうか?


否。salomoに神話はない。


「ズューネの夜」も、両親が殺害されたことも、それが原因ではないのか?


そもそも神話って何だ?

その問いかけに答えるため、14年かけて準備をしてきた。



「それで、あなたはこの組織を作って何をするの?ご両親の復讐?」

ツカサの隣に立つ女性は聞いた。


「かもな。神話のないsalomoが何をしようとしているのか、それを知りたいだけなのかもしれねえ」

「そう。ま、あなたの目的はなんでもいいのだけれど、共犯者としてはプランくらい聞きたいわ」

「人が神を操れば、世界は滅びるんだろ?けど、そうなってるのにまだ滅びていない。」

「ええ、そうね」

「神話だけが、神を持つ訳じゃない。神話がないsalomoにも神はいる」

「それで?」

「この世界を暴く。そして《原典》にたどり着く」

「あなたは神ではなく人よ?」

「《原典》から分派した神話はどれも神が人を造る。けど、本来は人が神を造るはずだ」

「あなたは何様なの?」

「俺は俺さ」


一息ついてツカサは言う。


「この街にも神話があってな。しかもこれは《原典》から分派した神話じゃない。あんただって、人に造られた神様だろ?共犯者様」



五代ツカサ。

――彼は、「神話」のために闘う。

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