少年の死刑の日

 マリは死刑執行人。今日もマリの元へ罪人が連れてこられます。今回の受刑者はまだ12歳程度の少年で、ギロチンでの死刑判決を受けました。何の罪を犯したのか、マリにはわかりません。


 処刑場に連れて行き、断頭台を前にすると少年は震えました。けれど涙を見せることはなく、背筋を伸ばして彼は断頭台を見据えました。まだ幼い彼。本当は恐ろしくて仕方がないでしょう。どれほど恐怖に苦しみ、ここへ来たことか。マリは彼に敬意を表し、跪きました。


 少年の首を枷にはめ、ギロチンの刃を落とす直前——「待った!」と叫ぶ声が聞こえました。声のした方を見ると、処刑台を囲む観衆をかき分けて役人が手を上げながらマリに叫びます。


 「その少年は罪を犯す前に応募していた家族旅行に当選している! よって、彼は旅行を楽しむ権利がある! この処刑を中断し、彼が家族旅行を終えて戻った後に刑を執行せよ!」役人は令状を掲げてマリに言いました。


神聖な処刑に口を出し、刑を延期せよとはなんと無粋な! つらい思いをしてここまで来た少年の覚悟を挫くようなこと。これは彼への侮辱だ、とマリは憤りました。役人は少年に慈悲を与えたつもりになって、得意げにしています。


 観衆と一緒にいた少年の母親は「なんてひどい。あの子があそこに立つまでに、どれほど苦しんだことか……」と、顔を覆い、悲痛な涙を流しました。

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