つちのこのこ駅へ

 「携帯電話などを使用せずに『つちのこのこ駅』へ行くこと」


 マリにそう命じた人は丁寧で詳細な電車乗り換え案内図を描いてマリに渡しました。携帯電話の使用が禁止されていることに不安を感じましたが、その案内図には乗り換える電車や乗車ホームの位置などが詳しく描かれていたので迷子になる心配はなさそうです。


 早速案内の通りに電車に乗っていると、何も乗っていないベビーカーを押したお婆さんが隣の車両に移動しようとして隣の車両へ続くドアへ向かっているのが見えました。ドアに差し掛かりましたがベビーカーが前にあるのでドアを開けられずガン、ガン、とお婆さんはベビーカーをドアにぶつけています。近くに座っていた人が見かねてドアを開けてあげるとお婆さんは無言で隣の車両へ移動しました。


 マリの近くに立っていたおじさんが「心理テストをしよう」と話しかけてきました。「君が、次の駅で何番線に乗り換えるか当ててみせるよ。何番線へ向かうか、念じてごらん」とおじさんは言います。心理テストとはすこし違う気がしましたが、マリはもらった乗り換え案内図を広げ、乗り換えるのが何番線のホームか確認しました。案内によると、8番線です。


 電車がホームに着いたのでマリは電車を降りました。降りたのはマリだけです。ホームから電車の中の心理テストおじさんを振り返ると、マリは指で8の数を示して「(正解は)8番線だよ」と声を出さずにおじさんに伝えました。するとおじさんは慌てて電車を降りてマリを追いました。「8番線か! そうか!」と言っておじさんは笑いました。


 改札を出て8番線に向かっていると学生服を着た真面目そうな男の子が「新しい切符を買わないと、この電車には乗れませんよ」とマリに教えました。それを聞いてマリは5枚つづりのぺらぺらな紙の切符を買いました。


 その学生服の男の子は7枚つづりの切符を買って「あっ」と声を上げました。彼は欲しかったものとは違う、8000円もする7枚つづりの切符セットを買ってしまったようです。その7枚つづりには旅に使う特急券などが数枚入っていて、男の子がほしかったのは普通列車用の『普通乗車券』だけ。それは7枚の内、3枚ほどしか入っていません。マリは気の毒な男の子になんと言葉をかけたら好いかを考えましたがなかなか思いつきませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る