意地悪バレリーナ

 一本の長いストローをハサミで短く切ってふつうの長さのストローを作るアルバイトを終え、マリは作業場を出ました。アルバイト先は細くて狭い雑居ビルの中にあります。1階の出口に行くため、マリは階段を降りていました。


 すると、その先の通路にバレリーナがいました。バレリーナは脚を高く上げる練習をしています。とても幅が狭くて細い通路なのでその長い脚を上げられては、マリは先へ進むことが出来ません。真剣に練習をしていると思ったので、マリは黙って、バレリーナが道を空けてくれるのを待ちました。


 ところがその内に、このバレリーナはわざとマリが通れないように脚を上げていることに気が付きました。このままではしばらく通れそうにないのでマリは「ごめんなさい、通りますね」と声をかけ、彼女の脚に出来るだけ触れないように廊下を通りました。


 バレリーナはムッとしたのか、マリに「あなた、背が小さいわね!  成長期来なかったの?」と嫌味を言ってクスクス笑いました。たしかにマリの背は低いのですが、特に気にしていることでは無かったので「そうなの。来なかったみたい。あなたは背が高くてきれいね」と背後のバレリーナにマリは返しました。


 バレリーナは、いじわるをした相手に褒められたことに驚いた様子で「あなただって、すてきよ!」と、もう出口の扉に手をかけていたマリの背に向かって言いました。


 「あの子はほんとうはいい子なのかもしれない」と思いながらマリは外へ出ました。

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