執事に手を引かれ

 マリは古くて大きな建物内にある本屋で本を探していました。なかなか気に入るものを見つけられず時間がどんどん過ぎていきます。するとマリがいるフロアの床が突然水面のように揺らぎ、床下からサメの背びれが現れてマリの方へ向かってきました。この本屋の床には、長居するお客を食べてしまうサメが棲んでいるのです。壁に『サメが現れたら階段を上がって避難してください』という貼り紙を見付け、マリは階段を駆け上がりました。


 階下の床の中を泳ぐサメを見下ろしていると燕尾服を着た執事がマリを追って階段を上って来ました。執事は「こちらへ」と言い、マリを本屋の外へ誘います。マリは彼に付いて行きました。


 小さな雑貨店がたくさん並ぶ通りを執事と歩いていると、アンティークの小さな香水瓶をたくさん売っているお店を見つけました。ウインクをしているハートのチャームが付いたものや蓋にダイヤが散りばめられているものなどが並んでいます。マリが手に取ってそれらを見ていると、執事はエメラルドグリーンの、いかにもマリの好みそうな香水瓶をすすめてきましたが「きれいな宝物は、たくさん持つべきでは無いのよ」と言い、マリは香水瓶を買わずにお店を出ました。


 歩き続けていると、どこからかカチコチと時計の秒針の音が聞こえてきました。それを聞いた執事はまた「こちらへ」とマリを誘導し、誰もいない小さなお店に入りました。マリが不思議に思っていると時計の音が大きくカチッと鳴り、空間が歪みました。しばらくして歪みが止み、周りを見るとマリたちは真向いにあったはずのお店の中にいました。今、真向いには先程までマリたちがいたお店があります。


 お店を出て辺りを見ると、通りのお店の並びや女子用お手洗いと男子用お手洗いの位置、通路の進行方向などが逆になっています。マリが混乱していると執事は「また空間が歪まない内にここから出ましょう」と言い、マリの手を引いて歩き始めました。途中に、チョコレートにまみれた石の階段がありました。ふたりはチョコを踏まないように上り、その先にある出口の扉に手をかけました。

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