秘密の死体

 

秘密の死体


 マリはある施設の廊下を歩いていました。途中で、曲がり角の向こうから声が聞こえたので、マリはそっと角に近付き、聞き耳を立ててみました。


 研究員らしい若い男性が「もうあの死体を棺に入れてやって良いでしょうか。だいぶ傷んできました」と誰かに訊ねています。相手は「ああ、良いよ」と返事をしたので、研究員は嬉しそうにして部屋のドアを開け、廊下へ出ました。マリは見つからないように研究員の後を追いました。


 しばらく歩くと廊下の真ん中に、何かを飾ってるガラスケースがあるのが見えました。そのガラスケースの中には真っ白で体毛の無い、やわらかそうな死体が入っていました。先ほどの研究員がケースの蓋を明けると、うっすらと腐敗臭が漂いましたが、彼は気にせず死体を抱きかかえて奥の部屋に入ると死体をよく点検して棺に入れる準備を始めました。


 その頃、世界では大変なことが起こっていました。海からは魚がいなくなり牛や豚や鳥たちもどこかへ消えてしまい、食べるものがほとんどなくなってしまったのです。マリは、この突然の食糧難にあの無毛の死体が関わっているような気がしました。あの死体はきっと、ガラスケースから出してはならなかったのです。


 研究員は腐敗臭を纏ったまま外へ出て、車に棺を乗せると、そのまま車を走らせて、助手席で腐臭に顔をしかめている恋人らしき女性とどこかへ行ってしまいました。

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